てんちゃんのビックリ箱

~ 想いを沈め、それを掘り起こし、それを磨き、あらためて気づき驚く ブログってビックリ箱です ~ 

母の呼びかけ

2017-09-30 04:08:17 | 昔話・思い出


いろんな所で、自分史の記事を書いていますが、ここにまとめようかというつもりになりました。
これは、もうなくなったSNSに書いたもので、年齢的には一番最初にあたるもの。




 この話は、私には実際の記憶がない(はずだ)。
 しかし他人の言葉が、記憶を作り出している。

 時は、2歳になる前。
 場所は、大家族で住んでいた田舎の古い家。


 急な階段で、2つ年上の従兄弟と遊んでいた時、私はあやまって落ち、土間に叩きつけられた。


  ショックで仮死状態、ピクリとも動かない。


 従兄弟が、火の点いたように泣き出す。
 慌てて駆けつける、従兄弟のお母さん。
 しがみつく子供をあやしながら、大声で人を呼ぶ。


 まず一番上のおばさん、そしておばあさんが駆けつける。
  お互いに僕に触って、様子を確かめる。


   息をしていない、心臓の動きが弱々しい。


 他の人も集まり始め、誰かが病院へ電話をかけに、駆け出す。



 やっと母が来た。周りからいろいろ声をかけられる中を、まっすぐ早足に私に駆け寄る。
 いろいろ触る。ほっぺたをパタパタ叩く。


   手を持ち上げてもだらんとしているし、
   身体中がどんどん青白くなる。

 「○○○○が死んでしまうぅ。」 母は大声で叫び、泣き出す。


 記憶が作った私は、土間の天井から、静かに俯瞰している。

 私を抱き、泣き叫ぶ母の背中だけがリアルで、その他の人は、真っ白の石膏のように固まっているか、残像のように透けて見える。

 いっそう母の泣き声が大きくなる。そして、呼びかける、呼びかける…・



 「だけど、なんとか息を吹き返したんだよ」

 そこに集まった人たちの話は、ここで、この言葉で終わる。私の作られた記憶も、ここで途切れる。


 どのくらい,仮死状態だったのか。
 どうやって息を吹き返したのか、医者は到着したのか。


 きっと誰も、その時の母のあまりにも激しい取り乱しようの記憶が、その後のことを消し去ってしまっているのだろう。

 そして、きっと母の涙、呼びかけが、私をこの世界へ呼び戻してくれたのだ。


 20歳くらいになるまでは、親戚が集まる度に何度も繰り返された話。でももうこの話をする人はいなくなってしまった。



 




コメント (2)
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