いろんな所で、自分史の記事を書いていますが、ここにまとめようかというつもりになりました。
これは、もうなくなったSNSに書いたもので、年齢的には一番最初にあたるもの。
この話は、私には実際の記憶がない(はずだ)。
しかし他人の言葉が、記憶を作り出している。
時は、2歳になる前。
場所は、大家族で住んでいた田舎の古い家。
急な階段で、2つ年上の従兄弟と遊んでいた時、私はあやまって落ち、土間に叩きつけられた。
ショックで仮死状態、ピクリとも動かない。
従兄弟が、火の点いたように泣き出す。
慌てて駆けつける、従兄弟のお母さん。
しがみつく子供をあやしながら、大声で人を呼ぶ。
まず一番上のおばさん、そしておばあさんが駆けつける。
お互いに僕に触って、様子を確かめる。
息をしていない、心臓の動きが弱々しい。
他の人も集まり始め、誰かが病院へ電話をかけに、駆け出す。
やっと母が来た。周りからいろいろ声をかけられる中を、まっすぐ早足に私に駆け寄る。
いろいろ触る。ほっぺたをパタパタ叩く。
手を持ち上げてもだらんとしているし、
身体中がどんどん青白くなる。
「○○○○が死んでしまうぅ。」 母は大声で叫び、泣き出す。
記憶が作った私は、土間の天井から、静かに俯瞰している。
私を抱き、泣き叫ぶ母の背中だけがリアルで、その他の人は、真っ白の石膏のように固まっているか、残像のように透けて見える。
いっそう母の泣き声が大きくなる。そして、呼びかける、呼びかける…・
「だけど、なんとか息を吹き返したんだよ」
そこに集まった人たちの話は、ここで、この言葉で終わる。私の作られた記憶も、ここで途切れる。
どのくらい,仮死状態だったのか。
どうやって息を吹き返したのか、医者は到着したのか。
きっと誰も、その時の母のあまりにも激しい取り乱しようの記憶が、その後のことを消し去ってしまっているのだろう。
そして、きっと母の涙、呼びかけが、私をこの世界へ呼び戻してくれたのだ。
20歳くらいになるまでは、親戚が集まる度に何度も繰り返された話。でももうこの話をする人はいなくなってしまった。