お昼に徳川園に行った。ちょうど冬牡丹展を行っていた。牡丹は華やかで迫力あるけれども、盛りを過ぎると乱れてくる。ピンクの貴婦人という名の牡丹がほんの僅か盛りを過ぎていて、藁の覆いの中を覗くと、寝乱れているようでとても色っぽいと思った。
<寝乱れし貴婦人>
貴婦人の
夢見気に病む
垣間見た
寝乱れし姿
脳裏を去らず
貴婦人の
夢見気に病む
垣間見た
寝乱れし姿
脳裏を去らず
夕方 雪が降り出した。前日や午前の天気予報にも取り上げられていなかった雪で日本の全域に降っているとのことだった。夜のニュースの時間、お天気キャスターが「不思議な雲が湧き出して・・」と言い訳がましく謝っていた。
夜寝ると、お昼に見た牡丹が夢に現れた。でもモノクロで、色っぽさというよりも儚さを感じ、おかしいな・・・
朝 起きると うっすらと雪が積もっている。ヒメツルソバの花が雪の中からこっそり顔を覗かせている。
<いきなりの雪>
いきなりの
雪だったから
こわごわと
おしまいかなって
まわり見回す
いきなりの
雪だったから
こわごわと
おしまいかなって
まわり見回す
寒いのでまた布団に潜り込んだ。でもちゃんと花の色を見ていたら、異変に気づいたかもしれない。この花もピンクのはずだったのだから。
昼 外へ出てみると、雪はほぼ解けていた。でも不思議 モノクロの世界が広がっている。
メタセコイアには、上のほうに雪が残っていて白いが、下の方のわずかに残っている葉も茶色ではなくモノクロ。
<下からエール>
雪残る
冷たく重い
上の枝
頑張ってほしい
下からエール
雪残る
冷たく重い
上の枝
頑張ってほしい
下からエール
テレビをつけてみるとちゃんと色付きになっていて、東京などの大都市は異常がない。しかしその郊外や田舎では、モノクロの状況になっているとちょっとした騒ぎになっていた。
でもほとんどの場合テレビクルーがそれを撮影に行くと、不思議なことにその現象が解消されるようで、モノクロの情景は放送されることがなかった。
私の地域では、夕方になってもモノクロの世界は続いた。夕焼けもモノクロで見ることとなった。
<鮮やかな夕陽が懐かしい>
あまりにも
色多すぎて
神様が
揃えられずに
墨だけで描く
あまりにも
色多すぎて
神様が
揃えられずに
墨だけで描く
専門家がまじめに検討しても、その現象の解明はできなかった。
真夜中、専門家に代わり素人たちが岡目八目の議論を始めた。
そして誰かが発見した。
「モノクロの世界の場所は、コロナ禍の起こっていない場所だ。」
「ふーん、するとテレビ局はコロナ汚染されていて、そのテレビクルーが行くと汚染されてしまうから、ちゃんと色がついてしまうのか。」
次の朝も、私の地域ではまだモノクロの世界だった。
テレビでは、ネットで出てきたその荒唐無稽とも思える話が、落語家のコメンテーターから持ち出され、でもあっさりと却下された。テレビ局にいる自分たちが汚染されているということになるのが気に入らないに違いない。
でもなぜそうなっているかはともかくとして、昨日の雪がコロナ汚染地を色分けして、ここが非汚染地域ならある意味ほっとしてもいいことかもしれない。
外へでると突然、足元から枯れたツワブキが話しかけてきたのは驚いた。
「僕はもう枯れるからいいけれど、自然のみんな、色がなくなって木や草じゃなくなったから怒っているのだ。」 だから心配で枯れるに枯れられない。
<心残り>
暴れ者
跳梁跋扈が
気がかりで
散るに散られず
様子伺う
暴れ者
跳梁跋扈が
気がかりで
散るに散られず
様子伺う
彼の言った説明のあらすじは以下のこと。
・コロナウィルスに対して、ガイア(地球生命体)はなるようになると受け入れているが、日本の八百万の神たちは、議論百出でどうするのかがまとまらない。
・そこで現実をみよということで、ガイアがコロナウィルスのあるところ、スモッグができるはずのナノ粒子をばらまいた。
・その粒子はコロナウィルスがあると周りにくっついて大きくなって水滴のようになり、霧ができるはずだった。
ところが調合を間違い、ナノ粒子はウィルスにくっつきに集まるけれども、近づくと分解してしまい、その近辺では何も起こらない。それに対してウィルスのいない所ではそこにある「もの」にくっつき、表面を覆う。通常「もの」は表面で光の波長を選択反射することで色がついて見えるが、微粒子内で乱反射し全反射してしまうので色がつかず、モノクロームで見える世界になってしまった。なお熱に弱く体温のあるものにはくっつかないとのこと。
一度撒いたナノ粒子は、そこにコロナウィルスが来るか、大雨でも降らない限り除去できないとのこと。
「だから、あそこの樹々をご覧。色がなくなってハリネズミのようにツンツンに怒っている。」
<ハリネズミ>
いらいらと
迷い彷徨い
ハリネズミ
先が見えない
なんてじれったい
いらいらと
迷い彷徨い
ハリネズミ
先が見えない
なんてじれったい
うーん、これは大変だ。
どうなるのだろうと考えていると、近くの池の水面に波紋が現れた。少しガタガタ揺れているようだ。
「あっ、ガイアが失敗を隠すために、水を地面から吹き上げ流しさろうとしているのかも・・・」 ツワブキが叫んだ。
ピシピシと音をたて、池の岩にまで波紋が現れていく。
<波紋>
揺れている
水は当然
岩までも
波紋を刻み
怒り広がる
揺れている
水は当然
岩までも
波紋を刻み
怒り広がる
足元が崩れ、暗い穴に落ちていくように気を失った。
目覚めたのは布団の中。窓から覗くとカラフルな世界。
今年の一輪目の乙女椿が咲いている。清純でとても清々しい。でも、もしかするとここもコロナウィルスが汚染したからかも・・・・
そして、乙女椿の隣に怪しい存在が・・・・ 眺めていると、向こうがにやっと笑って言った。
「私は、コロナではありません。」 ヤツデの花だった。
<私はコロナではありません>
コロナかい?
声を掛けたら
襲い来る
大きな手から
逃げられないよ
コロナかい?
声を掛けたら
襲い来る
大きな手から
逃げられないよ