てんちゃんのビックリ箱

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横山美術館 感想

2019-12-28 23:48:50 | 美術館・博物館 等

訪問日:12月18日


 私の最初の海外出張で、まず降り立ったのはロンドンでした。その時私の配偶者からぜひウエッジウッドやロイヤルアルバートの皿を買ってほしいと依頼を受けていました。
 そこで、一緒に来ていた人と買い物に出かけた。その人はデパートでバーバリーのコートを買ってホクホクだった。

 そして私のほうは、高級陶磁器店に行った。そこで驚いたのは、一番いい場所に置いてあったのはノリタケ、次に大倉陶園、それからウエッジウッドだった。ロイヤルドールトンや他のロイヤルコペン、マイセンなどのヨーロッパの陶磁器メーカーのものも並んでいたけれども、トップ2に日本のメーカーが並んでいたのを誇らしく思った。
 そして各国の美術館に行っても、日本の陶磁器がとても大事に扱われていることも認識した。ただしあまり日本国内で見かけないものが多かった。今回 横山美術館に行って、少し状況は分かった。

 横山美術館は、平成29年10月に開館したばかりの美術館であり、江戸末期以降の海外輸出された陶磁器の里帰り品を扱っている。入口には、こんな看板が迎えてくれる。

 

入口の看板       4階の展示風景



 中は1階がこの美術館の目玉になるもの、2階と3階が常設展、4階が企画展で今回は「じだいをつなぐ 近代・現代陶磁の美」と題し、ノリタケで市ノ木慶治など芸術家としてサインを許された絵付師たちの作品を扱ったものであった。
 本来の興味が、欧米における作品の由来というものであったので、1階~3階の展示で「そうそうあったね」というものを並べ、その後4階の話を書きます。

 展示で全般的に理解できたのは、向こうの万国博などで日本の工芸の粋として展示されたものにかかわるもの、それと一線を画しそれらの展開として向こうに適合した実用品もしくはオリエンタル風味の飾り的なものが輸出されていたことである。
 その中で名古屋近辺は絵付けの技術が非常に高く、それがノリタケなどへつながっていった。

 常設展には、オールドノリタケ、隅田焼、眞葛焼、コラレン、七宝焼、石目焼、瀬戸焼、萬古焼、有田焼が展示されている。海外の博物館によく飾ってあるものは薩摩焼や有田焼の大きな器のほか、国内であまり見ないやや過剰装飾のものである。

 ここで見つけた代表例が隅田焼の浮彫の高いもの。文政期に瀬戸の職人が江戸に出て焼いき、それが明治期も続いて海外輸出されたものだそうだ。とても立体感があって迫力がある。

 

隅田焼の作品とその拡大写真



 
 そして細かい金粒や輝石の文様がキラキラと浮き出したオールドノリタケ。外国製品にも類例はあったが、日本のものはとても粒が大きく豪華。

 

オールドノリタケ ジュール金盛の作品



 キラキラ輝くコラレン、これもオールドノリタケ。グラデーションの素地にガラス製ビーズを貼り付けていて、光の角度で印象が変わる。
 石目焼や七宝焼も同様に、表面の装飾性に特徴を持っている。

 コラレン焼は、実物は表面の細かい粒による輝きが虹のように美しい。石目焼はその輝く単位が大きくざらッとした感じで、七宝焼はつるっとした艶のある輝きをしているが、写真ではその差がほとんど出ないのが残念である。

 

 コラレン焼       石目焼



七宝焼





 こういったタイプのものは、出張によく行っていたころ国内で見なかったので驚いた。石目焼についてはちょっと興味を持って調べてみると、鉛入り低融点釉薬を使っていて有毒なので、現在は作っていないようである。たぶんガラスを使っているものは似たような問題があるのではないか。


 実用を目指したものについても一味違っていて、ラスター彩のもの、タピストリー風の文様のものなどがある。また4階の展示でも記載するが、色鮮やかな動植物を描いた装飾セットが飾られている。



ラスター彩の皿



タピストリー風の壺



鳥の描かれた 皿のセット



 4階の展示について、日本陶器(ノリタケ)は絵付け師の能力を高めるために、洋画家を呼び、技術指導を行っていたとのこと。その結果絵付け師が絵画展で入賞を繰り返すほど実力を高めた。市ノ木慶治はその先頭に立った人で、ノリタケで最初に描いた作品にサインを入れることを認められた人である。その後もサインを承認された人が続いたが、それらの人の作品が展示されている。

 このような陶磁器への絵の難しさは下記である。
 ・塗っている色と焼いた後の色は違うのでそれを想定して描く必要があること、
 ・素地に色を付けると修正が効かないこと
 ・陶磁器の形状は平面ではないのでそれを考えた絵にする必要があること。

 展示されていた4人の作家の作品を示す。



市ノ木慶治 作品



木村義一 作品



田中義男 作品



井尻盛男 作品



 日本の工芸の技術レベルや美的感覚は、明治大正時代には、これらの作品から世界でも非常に高いレベルに達していたのだと思う。しかし作品群は日本に留まることなく海外に流れてしまった。明治の頃の文化財の流出と同様である。

 たぶん明治維新によって文化や芸術の知識の流れが断絶し、それらの視点を持たない人が政治権力を握ってしまったことによるのだろう。

 
 この美術館は、海外が持つ日本の陶磁器のイメージの作品を、よく頑張って蒐集していると思う。そして写真撮影自由であるのもいい。ただし、展示方法がまじめすぎて、技術資料的すぎる。そして採は明るいが、照明がガラスに映っていい状態で作品を見られないものが多かった。

 最近の陶磁器の展示はかなり作品の魅力を引き出そうと工夫されていることが多い。やや薄暗くしたり、光の角度を変えたり、背景を工夫したりといった具合。もっと展示の方法があるのではないかと思う。
コメント (2)
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