てんちゃんのビックリ箱

~ 想いを沈め、それを掘り起こし、それを磨き、あらためて気づき驚く ブログってビックリ箱です ~ 

故郷の魚獲り

2018-01-29 00:29:44 | 昔話・思い出

 小学校6年生の夏だった。
 あの日の4日前、父が網を持って僕たち子供に言った。
「なまずを取りに行こう。」
そんなことを父の方から言ったのは、初めてだった。 
 当然 「いいよ。」

 父は歩きながら話した。
「下の田んぼの蓋をした水路に、実は大きなのがいるんだよ。今日はあそこの蓋をあけたからな。」

 行くと、蓋の上に乗っていた稲穂を干すための組み木が、蓋とともに畦道へ取り払われ、茶色い水の水路がむき出しになっていた。
「おい、そっちで網を持っていろよ。こっちから追いこむからな。」 
父は溝に入って歩き出した。僕たちが水路の上からわくわくしながら網を構えていると、ガツンと衝撃が走った。あわてて持ち上げようとする・・・ あがらない。

 父が下から手伝ってくれた。
見ると、片腕くらいもあるオオナマズが2匹。初めて見る大きさだった。小学校2年の弟は、「僕より重い。」と言ってはしゃぎだした。

 それを4~5回。大きなバケツに2つ、その一つ一つは子供では持ちあげられなかった。
父が真中で2つを持ち、その両側で子供が持ったのかぶら下がったのか、緑に照り返す田んぼの小道を3人並んで、やや高台にある家まで持ち帰った。そして得意になって近所の友達に見せびらかした。

「どうするの。」
「隠し田のところの沼と溝に放そうか。」   うちの近くの山陰にある沼。
「そうだね。あそこなら近くですぐ見にいけるからね。」 弟は大はしゃぎ。

 小さな池だった。あそこに全部放したのだろうか。記憶がない。


 そして次の日(3日前)、近所の中学校2年生が大川の河口近くまで、魚釣りに行こうと言ってきた。自転車で1時間ぐらい。ちょっと危ない荒地で、いつもなら母は許可しないはずだった。
 しかし、その日は父が行ったらと勧めてくれて、その次の日に行くことになった。


 魚釣りの日(2日前)、見事に晴れていたけれども入道雲が遠くに見える日だった。
 「もうすごく釣れるところだからね。」
 3人の年長者の話にわくわくしながら、自転車でついていった。途中から獣道を自転車で引きずり、ついに背と同じぐらい青い草が茂るその場所にたどり着いた。小舟を引きこむらしい、背よりも低いぼろ小屋があった。
 
 眼の前には、空を静かに写した川面、真ん中あたりで小さな鮎が跳ねている。そして向うの岸辺、同じように丈の高い草で覆われ、高い土手の向こうは青空だけ。川上も川下も、草にさえぎられて孤立された世界。

 年長者たちは、ぼろ小屋を拠点にし、4人バラバラとなるように釣り場への道を作った。

 そして誘った子が、僕に諸注意を説明してくれた。雨が降ったとき雷が鳴ったとき小屋へ潜ること、増水した時の土手への逃げ方・・・   そこまでは遠く、途中にはまともな道なんてなかったのだけれども・・ そしてギギを釣った時のやり方、これには毒針があるのだ。 

 決められた場所に行って釣りだした。完全に一人・・・ 隣の竿の先と、声しか聞こえない。
 釣り始めると、どんどん周りの声がにぎやかになる。僕も、びっくりするぐらいのペースで釣れる釣れる、フナ、またフナ、ハヤ・・  隣が小型の鯉を釣ったといって、はしゃぎだした。
 
 夢中になっていると川面が暗くなり、見上げると空の半分が黒い雲に覆われた。そして水面にパラパラと雨が落ちてきた。
「竿をがっちり固定して小屋へ。」 誰かが言ったので、すぐそちらへ行った。

「通り雨だ。やんだすぐあとは、大物が釣れることがあるんだよ。だけど雷が来たら撤退だ。」

 15分程度で小降りになり、幸いにも雷は来なかった。
 
最初に釣り場に戻った子が叫んだ。「おっ、引いてる引いてる。」
 次の子も、「僕のもだ。」
 
 あわてて、自分の釣り場に戻ったけれども、うきと釣り糸が下流側へ流されている程度。
がっかりして、竿を上げようとしたら・・・ 竿がぎゅんとしなって、糸がものすごい勢いで下流から上流へと水面を切った。すごい力。
 「うわっ」 おもわず大声がでた。 
川の中心へ・・ 「おおっ」  そして今度は下流へ、次にまた上流へ、思い切り引きずりまわされた。

「どうした、どうした。」 だいぶ騒いだのだろう。集まってきてくれた。
 そして少し近寄せたところを、網ですくってもらった。

 子供の肘から先の長さに近いおおきなフナ。
「すごいなあ。こんなフナ見たことない。」 

一番小さい僕にそれが来たので、中学生の3人は、一生懸命いろんな工夫をはじめた。
それなりの成果はでたけれども、僕より大きいものは釣れなかった。
 そしてついに誰かがギギを釣ってしまったので、それを機にやめることにした。

 家へ帰る自転車の上で、やっとうれしくなった。そして家に帰ったら近所の子供たちに見せびらかした。

 この時釣った魚は、から揚げになったはず。


 次の朝(1日前)、ラジオ体操が終わったときに、先生が言った。
「明日は、ラジオ体操はお休みです。ヘリコプターが来て薬を撒きますので、出来るだけ家の中にいることにしましょう。」


 そしてその日、初めての轟音を聞いた。バリバリバリ、これがヘリコプターの音か。ガラス窓から覗いた。
青田を押しつぶすように、白い雲を吐きながら飛んでいる。ジグザグに下流の方へと向かっていった。少しずつ白さは消えていくが、昨日とはなにか色が違うとおもった。

そして両親から、暫く田んぼの方には行かないように言われた。言われずとも行く気はなかった。

 実際 かなり長いことそちらへは降りていかなかった。噂では、なまずをとった溝や川に、小魚がたくさん浮いたとのこと。

 そして結局、田舎ではそれ以来魚釣りはしていない。



あるSNSから、こちらに集めるために転載。
コメント (2)
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