有事の際、鍬ヶ崎防潮堤は崩壊の危険性があると何度か訴えてきた。芯になる鋼管がもげる…と。震災を経験した沿岸の人は経験上その事はよく理解してくれる。しかし勉強するとなるとかえってむずかしくなるかもしれない。若者に期待する。
図面大幅書き直し済み(2016.5.15)
第1 シーソー
子供が最初にテコの原理を体感するのはシーソーでな
いかと思う。右側の女の子は相当がんばっている。
第2 てこの原理は「 a X = b Y 」
第3 女の子はとくに重くなったのではない(Y=X)、がんばって長さ(b)をかせいだのだ。
女の子の方に傾いたのは重心がちょっと右に遠くなったから。
a=b → a<b
aX < bY
第4(本題) 防潮堤計画にみる、てこの原理
現実の自然現象、社会現象の中でてこの原理がどのように働き、また応用されているのかを見る事によって分析力が一層高くなる。この津波講座では岩手県宮古市鍬ヶ崎地区に計画されている防潮堤を、それこそ、てこの原理をてこにして分析する。間違いや足りないところは本当の先生に聞いてこちらに教えてほしい。
2015年5月、鍬ヶ崎地区に配られた岩手
県・宮古土木センターのPRちらしの一部。3年前
と同じ図が載っている。
こればっかりだ!
鍬ヶ崎の防潮堤にみる「てこ」
岩手県が宮古市鍬ヶ崎地区で進めている防潮堤計画のプレキャスト工法の中心芯棒の鋼管は地上面をてこの「支点」とすると、「力点」に 1 の力が加わると「作業点」には 8 倍の力が働く。なぜならば、支点から作業点への長さが力点への長さのおよそ 1/8 だからである。シーソーのほか、くぎ抜きや工具のバールを思い浮かべるとよい。津波の力の 8 倍の力が防潮堤の底版にかかる。図 1
図1 防潮堤の中のてこの原理(1)
10トンの津波の力がかかったら、てこの原理で鋼管や底版に 80トンの反作用がある。後はどのように防潮堤が破壊されるかのシミュレーションだけと言っていい。
二つの問題点
第5 防潮堤計画の情報不足
この逆T字型の「代表断面図」は(ある時は「標準断面図」と言ったりして)丸3年間、替えていない。これ以外を作っていない。鍬ヶ崎の防潮堤を説明するとき岩手県はこの図だけを持ち出してきた。地元民はこの図を3年間見せられて、防潮堤建設を迫られてきた。役人であれ知事であれ人の庭先に何かものを作るのに…こんな図面一つで通すつもりなのか!どこのだいにそんな業者(行政)があるものか? 海の伝統あふれる鍬ヶ崎浦に巨大防潮堤を作ろうというのだ、そんな事は世間が許さない。
第6 不都合な(?)第二の図面 、鋼管にかかる第二の負荷
なぜ岩手県は県民にこの逆T図だけを見せて、立面図も側面図も全体構想も、部分部分の詳細図も、隠し通してきているのかと言えば情報公開が自分たちにとって不都合だからです。(本当はメーカーや建設会社にとって不都合なのであって、県は単に知らされていないだけかも知れないが…この事は後で述べる)
図2 ユニット図
図3 詳細
図2(図3) 私の方で勝手に命名して勝手に描いている鍬ヶ崎防潮堤の「ユニット図」である。総延長1,600メートルの最小単位になる。防潮堤全体はこのユニットが横に連なる構図である。上部は、積み上げられたコンクリートブロックを鋼管製の2本の心棒で支えている。鋼管はコンクリートの底版に1メートルほど刺さって立ち上がっている。
冒頭に書いた津波を経験した沿岸の人々はここまで読んで直ちに最悪の事態を理解するはずである。以下勉強するまでもなく…鍬ヶ崎防潮堤は足もとからもげるぞ…と。少なくとも容易ではないな…と。もちろん社会経験を積んだ大人であれば内陸の人もふつうに分かる。
図 4 防潮堤の中のてこの原理(2)
図 4 防潮堤にかかる津波の圧力をこのユニット図で斜めから見てみると、図1 で見た防潮堤の中の「てこ」の作業点への力の掛かり具合がまったく違った景色に見える事が分かるはずである。てこの作用点つまり鋼管の地中「底版」部分にかかる力はてこの力点の鋼管分の巾(圧力)だけでない事が分かるのである。ユニットの壁巾全体にかかる圧力がたった2本の鋼管杭にかかってくる。どう見てもバランスは悪い。
注意)小さい事といっても見逃す事が出来ないのは、積み上げられたブロックは津波の圧に対してはなんの支えにもなっていない事である。力学的には0(ゼロ)。したがって「鋼管分の巾」とは鋼管だけが支えになっているということを示している。
鋼管にかかる第二の負荷
図 5
図 5 鋼管の巾は80cm(直径)、ユニット巾は6メートルである。ユニット防潮壁全体で受け止める津波の全圧力は2本の鋼管に集約配分される事になる。6 メートル ÷( 0.8メートル × 2本 )と計算して、鋼管 2本には「ユニット壁巾の受ける全圧力の配分」として鋼管自体にかかる負荷の 3.75 倍の圧力が配分される。
※ここは圧力のユニット巾(圧力)の鋼管巾(圧力)への配分移動だけで、鋼管の地上部分、地中部分の「てこ」的長さには関係しない。
第7 鋼管に30倍の負荷
図 6 1ユニットの海側側面図
図 6 力点ー支点、支点ー作用点の長さの比(8:1)から鋼管作用点には、ユニット壁巾と鋼管杭巾の比(3.75:1)と合体して、実に津波の圧力の30倍の力が作用する事になる(8×3.75=30)。防潮壁巾の一部分として自身が地上で請け負う防潮堤としての役割=例えばコンクリートと鋼管杭が一体になって計算された防潮堤の強度、の30倍の負荷という言い方になる。
「30倍の負荷」という言い方がどういう事であるのかというと、有事の際、防潮堤を打つ津波の圧力(運動の力)が壁面の単位面積あたり1だとするとこの鋼管そのものには、面積比(巾比)で、単位面積あたり3.75(倍)の負荷がかかります。てこの原理でそれが8倍に増幅して作用点には単位面積あたりなんと、30(倍)の津波の圧力がかかる事になるということです。
【ここでドリル問題です】 単位面積を1平方メートルにしてそこに津波の力1トンの圧力がかかったとして、上の下線のある文章を言い換えてみましょう。
【ドリル問題2】 岩手県のPR図(図1)について同じように言ってみよう。
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【ドリルの模範解答】 有事の際、防潮堤を打つ津波の圧力(運動の力)が1平方メートル当たり1トンだとすると、鋼管(2本)には防潮壁全圧力48トンが集約され、鋼管それ自体の強さの3.75倍の力がかかってくる。てこの原理で作用点の地下1メートルには(48トン×3.75×8メートル)1440トンの負荷がかかる。
訂正)「(48トン×3.75×8メートル)1440トンの負荷」は「(48トン×8メートル)384トンの負荷」に訂正します。2016.5.31
訂正の訂正)字消し線(2017.6.3)
【ドリル2の模範解答】 同じように言えない。てこの原理から図1で負荷が 8倍かかると驚き、防潮堤は壊れると危惧したが、それはユニット巾 6メートル全面に心棒として鋼管が挿入されている場合であったのである(あたかも鋼管7.5本が入っているような…。最悪をかくすためのごまかしのイメージであったのである)。
実際に挿入されているのは 2本の鋼管だけ。鋼管の足元の負荷が8倍ではなく30倍であれば、驚く事ではない、防潮堤倒壊は間違いない。倒壊の引き金は底版なのか鋼管なのか? どこからどのように壊れるのか研究するだけである。【ドリル問題3】その倒壊の様子を書き出してみよう。
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講座(3) 運動の力
講座(2)ローマ人の哲学
講座(1)寄りかかりの力