「おーい、おーい」
お盆に帰省する長女一家にカブトムシの世話を頼まれました。世話といっても朝と晩に霧を吹いて、市販のカブトムシ用のゼリーをあげるだけです。
死んだり逃げたりしてもよければという条件で引き受けたのですが、できれば無事に飼い主に返したいものです。初めの頃はずいぶんと緊張もしました。
ただ当のカブトムシはほとんど飼育箱の中の腐葉土(くぬぎマット)の中にもぐっていて、夜にならなければ出てきません。その上動きも鈍く、死んでいるのではないかと心配するくらいじっとしています。これが昆虫の王者かと思うくらいにおとなしいのです。
それで安心したのでしょう。朝餌をやりにいくと、飼育箱の蓋がずれてカブトムシがいなくなっていました。たぶん私が飼育箱の蓋をきちんと閉めなかったのか、それとも閉めること自体をついうっかりと忘れてしまったのでしょう。
どちらかと言うと私はこのついうっかり忘れてしまうが多いです。朝食後に一錠飲んでいるコレステロールの薬も、たまに飲み忘れることがあります。またひどい時には飲んだか飲まなかったのかさえ分からない時もあります。
これが老化と言われればそうですが、やはり老化は遅い方がいいですね。しかし今日の場合のうっかりは、カブトムシが思ったよりもおとなしかったいせいではなかろうか。蓋を開けた途端に逃げ出そうと待ち構えているなら、こちらもそれなりに気を付けるのだが。
などと自分のうっかりをカトムシのせいにしていると、夫が私を呼ぶ声が聞こえてきました。
「おーい、おーい」
そんな大声で呼ばなければならい程の広い家ではないし、普段はそんなふうに呼ばれたことはありません。何かあったのだろうか。もしかしたら倒れたのではなかろうか……。慌てて声のする方に飛んでいきました。
「いたぞ、カブトムシ」
逃げたカブトムシが窓のカーテンにとまっていたと、夫は得意げに言うのです。
ああ、いたんだカブトムシ。よかったと思ったものの、しばらくドキドキしていました。
それにしても人のこと呼ぶのに「おーい、おーい」は無いのでは。これに「婆さんや」をつければ、昭和の時代の爺ちゃん婆ちゃんになってしまうと、後になって思いました。
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