「草原にあるパオの場所もいくつか教えてもらえたし、軽めでいいね」
「ハイ、そうですね」
女神の果実を探す旅の途中で訪れた土地の、一つの騒乱が落ち付き、
また次の目的に向かって旅を再開する。
その準備のために、ヒロはミオを伴って、村の店を回り、物資を調達していた。
* * *
大体次の村までの行程は、聞き込みで解っている。
この程度の旅なら自分一人でも十分に手慣れた物資調達の仕事ではあったが、
ヒロは、あえてミオを伴っていた。
普段から「役に立たない」ことに委縮する彼女に、居場所を与えるために。
それが功を奏して、ミオは自信を保ってこの役目を負っているようだ。
普段は寡黙すぎる彼女から、自発的にいくつかの提案があるのが、その証だった。
「冬の装備を揃えられる最終地点を確認したほうが良いかもしれませんね」
「そっか。うん、じゃあそれも後で聞きに行こう」
自分の立ち位置が不安定な旅ほど、辛い物はない。
ヒロは、経験上、それをよく解っていた。
ミオと二人で草原を越えていく旅の準備を一つずつ確実にこなして、あとは、
宿屋の天幕で留守番をしている二人の元へ戻るだけになった。
戻る道すがら、「今日の夕飯も族長の天幕に招かれたらどうしようか」と
何気ない話を振ったものの、手ごたえがなくて、ヒロはうつむいている彼女を覗きこんだ。
「ミオちゃん?」
「あ、ハイ!なんでしょう?」
その反応から、何か考え事をしていたらしい、と解って、足を止める。
「どうかした?何か、気になることでもあった?」
「え?いえ、あの、違います、大丈夫です」
見落としはないですよ、と、几帳面に紙に記された物資の内容を掲げる。
それを確認してから、じゃあ、と続ける。
「何か言いたいことがあるなら、今のうちに言っといた方が、絶対!良いよ?」
「え?」
「夕飯を族長の天幕で、ってなったら、また何かしら大騒ぎになって」
それどころじゃなくなるよ?と、ヒロが大げさに脅すような身振りを加えると、
小動物のように身を縮こませて、ミオが反射的に頷く。
「は、はいッ」
<村を救った旅人>として、新しい族長を祝う席に招待されるのは良いが、
「昨日の天幕での騒動はなかなかのものだったからなあ」
と、それを身をもって知っているはずのミオに(なにせ皆で招かれたのだから)、
わざわざ騒動の一からを大仰に語って聞かせる。
新族長を敢えて相手にしないミカと、それを認めさせようとする若き族長との
些細な摩擦が火種となった宴での騒動を、分析も交えて。
「…まあ、そういう意味ではミカもナムジンなみに大人げないんだよ、な?」
ミオに同意を求めるように話を振れば、例えそれが肯定の一言だけでも、声は出る。
そうして続けて声を出すことに慣れれば、ミオも話しやすくなるのが常だったが。
今日のミオは、相槌をうつことも忘れたように、ヒロを凝視しているようだ。
「あれ?え?なに?どうしちゃった?」
ミオのいつにない反応にヒロが困惑すると、慌てたようにミオが謝る。
「あ、あの、ごめんなさいっ」
「いやあ、俺の話はぜんぜん良いんだけどね」
特に意味のある話ではない。ただミオが話しやすくなるように、振っただけの話だ。
だが、ミオがそれさえも考えられないというのは。
「何か思いつめてるんなら、ちゃんと聞くよ?」
そう促せば、それで意を決したように、ミオがその場に立ち止まり口を開いた。
「ヒロくんに、聞きたいことがあります」
* * *
「おお、俺に?…なに?なんだろう?」
いつものミオはと違った様子に、さすがのヒロも身構える。
その緊張が伝わったのか、ミオもより一層、緊張して妙な空気になった。
「いっ、言いたくないことだったら、言わないで、ください…っね?!」
尋ねておいて、云うな、という要求も、普段のミオらしくなくて、いよいよ困惑する。
「…あ、ああ。…ハイ。そうします」
ミオは、元々心根が優しい。他者の内面を傷つけるような、暴き方はしない。
解っているのに身構えたのはどうしてなのか。
ヒロは、自分の内面にこそ不穏なものを感じ、それを暴かれるのか、と
ヒヤリとさせられたが。
「ヒロくんは喋りたくなくても喋っちゃうんですか?」
と、問われ。
「…」
その質問があまりにも突拍子もないものだったので、全力で声が裏返っていた。
「はぁ!?」
「あっ、あああ!ごっ、ごめんなさい!失礼なことを聞いてごめんなさい!」
忘れて下さい、と慌てるミオを前に、たっぷり10秒は固まった。
この自分が。
『無駄に空振りする太鼓持ち』、とミカに称された程の奉仕精神が自慢だったのに
目の前の奉仕対象者の言動に、適切な反応ができなかった。
「い、いやあ、うん、なんかビックリして…」
呆然としたまま、とりあえず、この場を収めるために口を開いたが。
「そうですよね、ごめんなさい、私、あの、私の質問なんかのせいで、あの」
その質問がそもそも。
「いやいや、もっとスッゲエこと聞かれるのかと思って身構えてたから」
「ええ?えっと、どんなことですか」
「いや、うん、なんだろう。良くわかんねーや」
「そっ、そうですよね、何で私ったら、ああ、意味分からないですよね」
ミオがひたすら恐縮しまくっているのを見て、やっと気持ちが落ち着いた。
「うん、とりあえずそれじゃわからないから」
あっちあっち、と、ミオの背後を指差す。
「え?」
「あっちで、ゆっくり聞かせて?」
「あ、あの、でもヒロくん、は」
「うん、俺はミオちゃんの質問に、ちゃんと答えたいから」
と、放牧地の片隅にある、村人からは忘れられたような作業用の腰掛けを示した。
* * *
「ミカさんが、云ってたことが気になってて」
と、ミオは口を開いた。
腰掛けに並んで座って、午後の穏やかな風に草原特有の匂いを感じながら、
少しずつ話を進めるミオの言葉を、聞く。
「ヒロくんは、私がその場の沈黙を気にしなくていいように、喋ってるだけだ、って」
以前、砂漠の町で二人きりになった時、ミカにそう言われて、
ミオはずっとそれが気にかかっていたらしい。
その事の顛末を打ち明けられて、ヒロは脳内で、ミカに3発ほど鉄拳をくらわした。
(おい~!!ミ~カ~!!!!)
ミカは大体、自分の云いたいことを云いっぱなしで、そのあとのフォローをしない。
そんな「事柄」だけを聞かされて、ミオがどう思うか、そこに気を回さない。
「私のせいで、ヒロくんの負担になってるなら申し訳なくて」
(そりゃ、そんな云い方されればミオちゃんじゃなくてもそう思うだろ!!)
真実であるなら、それがあるべきことなら、率直に口にするべきだろう、という態度が、
そもそもの、ミカの人間関係を破綻させる原因である、…と、
今まで付き合っただけでも解る。
解ってないのは当人ぐらいだ。と、あと2発ほど、追加で蹴りも入れておく。
そうして、ややすっきりしたので、ミカの後始末をしてやってもいいか、という思いで
「うん、それはね」
と、いつもの調子をとりもどし、軽い気持ちで口を開いたヒロだったが。
「私はどうしたら、ヒロくんの負担にならないようにいられますか?」
そう聞いてきたミオの、真の問いかけは、これだったのか、と息を飲む。
その問いかけの強さは、そのまま、ミオの覚悟の強さだった。
それが。
(だめだ、今までとは訳が違う)
今までなら、ミオの気がかりや不安を取り除いてやるために、
「それらしく」話してやることは、この自分には、容易い。
気にしなくていいよ、口から生まれたって云われるくらいだよ、喋りが本望だよ、
と、何でもないことを云い含めるのは、自分とミオの間において、
有害なものを微塵も含まないことは解っていた。
それでも、今、ミオの覚悟を見た時に、そうしたくないと思ってしまった。
何を言われてもちゃんと受け止めよう、と、真摯に向かってきているミオに、
自分も正面から向き合ってやらなくては、ミオを蔑ろにするようだと、感じたのだ。
(この子は、今、人と付き合うという行為に、一歩を踏み出している)
* * *
「これは、俺が単に聞きたいから聞くんだけどさ」
と、責めているわけではない、という前置きをして、ミオの了承を得る。
「なんで俺にそれを聞いてみようと思った?」
今までなら、ミカにそれを指摘されたくらいで奮起するミオではないだろう。
ここに繋がる何かがあって、ミオを変えたものが何であったのかを知りたかったのだが。
「ミカさんといる時は、ヒロくんは一言も話さないって…」
そんなミカの「駄目押し」的な発言に、再び理不尽なものがこみ上げる。
「…いや、一言くらいは話すでしょ」
「あ、ご、ごめんなさいっ、間違えたかもしれませんっ」
「あああ、いやいや、違う違う、ミオちゃんに言ったんじゃなくて」
慌てて手を振ると、ミオがまた委縮しているので、軽く咳払いでごまかす。
(もー、あとでホントに後頭部をはたいてやろう)、と、そんな仕返しを誓い、
気持ちを切り替えてから、ヒロはミオに向き合った。
「ミカと無駄に喋らないのは、喋らなくても意思の疎通ができるからなんだよ」
「…喋ら、なくても…?」
「そう。無駄に口数増やしてる方が、ミカとは話が通じないんだな、これが」
それも最近解ってきたんだけどさ、と付け加えておいてから、逆に、と続ける。
「ミオちゃんとは、たくさん言葉を交わした方が意思の疎通ができる」
「私とは」
「うん、そう俺は思ってるので、ミオちゃんとはいっぱい喋る。とにかく喋る」
それは、ミオのせいではないのだ、という事を理解させたくて、もう一つ。
「ウイとは、言葉では意思の疎通ができないので、テンションを合わせる」
そういえば、ミオが吃驚して思わず、というように声を上げた。
「ええっ?ヒロくん、ウイちゃんと仲が良い、…です、よ、ね?」
「あ、そりゃ仲は良いよ。なんかこう、気が合うっていうか。…普段はね」
だが、込み入った話になると、ウイ自身が何を言いたいのか、解らなくなる。
「ウイの場合は、言いたいことと言わなきゃいけないことが混乱してて…」
難解すぎる。
「ウイよりは、ミオちゃんとの会話の方が、まだしもスムーズなんだよね」
ヒロがそう言うと、ミオは、憮然としたまま、固まってしまった。
ここでたたみかけると、情報量が多すぎて逆効果か、とヒロも沈黙する。
ミオが、常に自分に自信がもてないのは、一緒に旅をしていてわかる。
ウイは根拠のない自信に充ち溢れているし、ミカはそもそも自信なんてものを、
せせら笑いそうな勢いだ。
まだしもとっつきやすいヒロに、何かの救いを求めているのかと思ったが。
「わたし、ヒロくんのような人になりたいんです」
まっすぐに、そう告げられて、今度はヒロが憮然とする番だった。
* * *
「はあ?!俺?!なんで俺?!」
「あああ!ご、ご迷惑ならすみません!あの、わたしなんかが、その…」
本当にもうすみませんごめんなさいもういいません、とこれ以上はないほど
動揺しているミオを見て、再び、自分の失態を悟る。
「いや、違う違う違う、ミオちゃんのせいじゃなくて…っ、俺、俺!俺の問題で」
と、ヒロが取り繕っても後の祭り。
「いえ、良い、良いんです、私、思わず、あの、失言でしたっ」
せっかくミオが開いてくれた心を、再び閉じようとしているのが解る。
これは、生半可な説得では、こじ開けられそうにない。
今日は、ミオからの爆弾発言に全くの防御ができない。自分もまだまだと言う事だ。
と、自省した時、思いついた言葉がそのまま口から出た。
「俺は、ミオちゃんみたいになりたいと思ってるんだけど」
ヒロのその言葉に、今度はミオが驚愕する。椅子から飛び上がる程、の反応で。
「そんな!そんな私、私って?!」
「そう!それ!!」
「ええ?!」
「な?いきなりそういう事言われると吃驚するだろ?俺もそれ、それだから!」
誤解しないで、と懇願を込めると、しばらく立ち尽くしていたミオが、
ぎくしゃくとした動きで、再び、椅子に戻った。
「ハイ、あの、いきなり言ってすみませんでした」
「あ、ああ、うん。ハイ」
でも私、とミオが顔を上げる。
「本当に、ずっとヒロくんに憧れてるんです」
そう言われてしまっては、逃げ場もない。ヒロもただ頷くと、再び沈黙が下りた。
ミオが、この自分に憧れているとするなら、とヒロは自分自身を分析する。
対人関係での面だろう。
誰ともそつなく会話をして、その場を適当に盛り上げて、人の世話を焼く。
ヒロのそういう所が、ミオには羨ましく思えるのだろう。
だが、それは、ヒロにとっては、未だ言えない傷を抱えるほどの汚点だ。
ウイに慰められ、ミカと相互理解でき、ミオに頼られているこの旅の間に、
少しずつ癒えてきている途中の、『自己嫌悪』なのだ。
それを、今ミオに話すのは難しい。
自分にこんなにも心を開いてくれた彼女を、傷つけるのが怖い。
だから。
「俺が、ミオちゃんみたいになりたいって思うのは」
そう切り出せば、うつむいていたミオが顔をあげて、ヒロと視線があう。
以前は、視線を合わせただけで、縮こまってしまっていた彼女に、
ちゃんと正面から笑顔を返すことができる。
それだけ、ミオも成長しているのだ。そこを、話してあげよう。
「人と話をするときに、とても慎重になるところだな」
「慎、重?」
「うん。俺はさ、その場の勢いでとにかく会話しなくちゃ、って思うんだよ」
わかる?と目線で問えば、たどたどしくミオが頷く。それに頷き返して。
「で、寝る前に、あの言い方で良かったかな、とか、不快に思われてないかなとか」
夜、猛反省する。と、力説すれば、ミオが、ええ?!と声を上げた。
「一日にあったこと全っ部!思い返して、いちいち丸バツ丸バツ、ってやってる」
「そ、それって、…眠れないんじゃ、ないですか?」
「うん、バツが多い時はくよくよして眠れなかったりする」
くそまじめな顔をつくって、腕を組んでわざと冗談っぽくそう言ってやると、
ミオが信じられない、と言いかけて、それを躊躇するように口を閉じた。
「だからさ、ミオちゃんって偉いよな、って思うよ」
「え、と、でも、私、は、…会話が、できないだけ、で」
「うん、でも俺は、ミオちゃんが、『できない』、とは、思わないんだよね」
* * *
「ミオちゃんは、喋るのが苦手、って言うだろ。それってさ、喋れないんじゃないだよ」
言葉がミオの心の中に何もないわけじゃない。
言葉だけなら、感情のままに言葉にするだけなら、きっと人一倍、豊かだ。
「ミオちゃんの口が重いのは、話せないからじゃない」
答えたいこと、話したいことがいっぱいあって、けれどそれを口にする事で、
相手を傷つけないか、不快にさせないか、そういう事を必死で考えている。
自分の意志よりも、相手の望む答えを導き出そうとする。
頭の中にある、何億もの言葉を全て使ってでも、『正解』を出そうとしているのだ。
そうして、頭の中で言葉を考えて考えて、考えあぐねて、
「相手にとって一番良い話し方を考えすぎるから、なかなか言葉にならないんだよ」
そうしてしまう心の、慎重さと、臆病さは同じだろうか?
ミオは、自分のことだけに解らないだろう。だが、ヒロには解る。解りすぎるほどに。
何故なら。
「それって、俺と似てるよね」
「え、え?」
ヒロは、自分が臆病であるが故だと思う。だが、ミオの場合は、慎重なのだ。
「俺はさ、言ってしまってから考えすぎる。ミオちゃんは言う前から考えすぎる」
自分とミオを、交互に指でさして言ってやると、あ!とミオが口を開けた。
「ほ、ほんとだ、考えちゃうのは、おんなじ、なんですね」
「な?」
同意を得て、その事実がミオにとって負の印象になる前に、笑って見せる。
「俺達ってさ、お互いにお互いの逆のとこが良いなあ、って思ってるんだよ」
面白いよね、そういうと、ミオもただ首を振って頷く。
だから。
「だからさ、俺みたいになりたい、って思わなくても良いんだよ」
そのままで。
ミオの『良いところ』を、そのままミオがちゃんと自分で認められれば。
「ミオちゃんから見た俺、っていう理想を超えて、もっとずっと、なりたい人になれるよ」
そうだ。
ミオは、ヒロの『切り捨てたい部分』を真似なくていい。
人の輪の中で、器用に、そつなく振舞おうとしなくていい。
誰にでも良い人で、誰にでも求められる人でありたいと思わなくていい。
自由に、もっと自由に、自分を解放すればいい。
それが、ヒロの理想なのだから。
「あ、あの」
ん?とミオを促せば、ありがとうございます、と生真面目に頭を下げる。
お礼なんて良いのに。
この自分の話で、ミオが何かを見つけてくれたのなら、それだけで十分なのに。
そう思ってはいても。
「私、あの、うまくいえないですけど、すごく、…すごく幸せです」
それ以上の感動を、ミオが言葉にしようとするから、だからヒロは、
ただ耳を傾ける。
「ヒロくんが言ってくれたこと、私、とてもよく、解りました」
それに、と、頬を紅潮させて、意気込んで喋ろうとするミオに、一拍の合の手。
「うん」
「ミカさんが言ってくれたことも、ウイちゃんが言ってくれたことも」
「…う、うん?」
ミカ…、はともかく、ウイはなんだろう?と、ヒロの気が、ややそれた時に。
ミオの笑顔から、涙がこぼれていた。
「え?」
自分が泣かせてしまったのか?!と、思わず立ち上がりかけたが。
「ヒロくんが話してくれたことで、全部、解りました」
解ったと思います、と力を込めて言った後、涙をぬぐうしぐさが気丈で、
彼女の心を満たしているものがなんであるのか、考えることができなかった。
だから、何もできずに、ただ、ヒロはその先の言葉を聞いた。
「だから、だからやっぱり、ヒロくんは、私の憧れです」
初めに聞いた言葉。
あの時に聞かされた言葉とは、まったく違う響きがそこにある。
ミオの、心が違う。
「ヒロくんが夜に一日を振り返って落ち込むのも、猛反省して眠れないのも、
ヒロくんがいらないって思っても、私にはいらないかもしれなくても、
それが今のヒロくんなんだって思ったら、いらないところも全部が」
ゆるぎないほど、鮮明な心。
「私は、大好きです」
強く。
強く、言いきられた。
ヒロの反論も、迷いも、逃避も、…自己嫌悪でさえも。
そんなもの全てが、弱弱しいと思えるほどの、彼女の心の強さだった。
「ヒロくんみたいに、誰かを安心させてあげられるような人になりたいです」
それは、ヒロの理想を超えた現実が、そこにあることの、証。
ミオが作り上げたヒロの幻影を追うのではなく、ミオ自身で考え、掴んだ答えだ。
そのことに、心からの喝采と、力いっぱいの声援を送りたいと思った。
ミオから贈られた言葉の熱は、そういうことなんだろう。
* * *
次のパーティを、最後にしようと思っていた。
仲間に誘われ旅をしても、日を重ねれば仲違いをし、一人に戻っていた。
幾度もそれを繰り返した。
だから、次に誘われて、そこでもやはり上手くいかなかったら、
もう、一人で旅をしようと思っていた。
その覚悟を決めた、『最後』に誘ってくれたのは、ウイだった。
自分の孤独は、ウイに出会うためにあったのだ、と思った。
人は、いつも一人だ。
一人だから、誰かと全く同じにはなれない。
二人は、一人になれないのだ。
二人には二人の意味があるように、一人にも一人の意味がある。
一人であることを嘆く必要はない。
一人であるからこそ、生きている意味がある。
誰にもなれない。あなたがあなたであるから、あなたを必要とする人がいる。
誰かに必要とされるために、あなたという「孤独」があるのだから。
だからどうか、自分を捨てないで。
自分であることに、胸を張って生きていれば、あなたを見つけてくれる人がいる。
あなたが、誰かを見つけるように。
私が、あなたを見つけられたように。
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