ミオ 「ああああ私のせいでごめんなさいごめんなさい」
ウイ 「ダイジョーブだよ、ヒロがヒロなのが一番だよ」
絵がうまく描けて無いけど、先生にカットされたヒロの髪型はソフトモヒカン
のつもりで描いてるんですよあれでね?
ソフトモヒカンというかツーブロックというか刈り上げというか
その辺の違いがヘアカタログ見ても全然分からなかったんでどれでも良いんですけど
まあなんかその辺のザリザリする感じの芝犬の背中みたいな感じの手触りの
あれですよ!
先生は立たせる感じでセットしてくれたけど役目が終わった今
手櫛でサササーっ、です
そんなヒロの見た目は5キロ増えてるはずなので
ミオに今まで通り懐いてもらうためにはダイエットもしなくちゃですわ
ここは城下にあるレネーゼ侯爵家の私邸の一つ。
後継者であるミカヅキ名義の屋敷を管理する執事のアドールは今、一着の衣装の手入れを念入りに行っている最中であった。
ミカヅキの友人であるヒイロのために誂えられた一着。
その保管をどうするか、と頭を悩ませていた二人の会話を聞いていての事だ。
自分の手元で保管するには上等すぎる、というヒイロの言い分と、侯爵家で保管するには私的すぎる、というミカヅキの言い分、どちらも尤もだと思ったので。
「私がこの屋敷で管理させていただくというのは、いかがでしょうか」
と、差し出がましいのを承知で提案してみた。
普段から、ミカヅキの衣装なら数点ばかりだが管理している。
そこにこの一着が加わろうとも、問題はない。
ここはミカヅキの私邸だ。そして自分は侯爵家からは切り取られた従者だ。この一着について管理状況を侯爵家に報告する義務も、管理に対する報酬を侯爵家から受け取る権利も持ってはいない。
その話に、ミカヅキはそれで良い、と言った。よろしくお願いします、とヒイロが言った。そういうわけで、今、この衣装はここにある。
(立派に今日のお役目を果たされたのですね)
その労りを込めて、慎重に羽箒で生地を撫で、埃を落としていく。
平民であるヒイロを引き立て、貴族であるミカヅキの隣にある事をわずかも損なわないよう、細心の注意を払って、裏地の一枚、糸の一本から考えに考えられた衣装だった。
それを脱いで、ようやくヒイロは、言葉通り肩の荷を下ろしたのだろう。夕食時には、今日1日の出来事を、話して聞かせてくれたものだ。
この一ヶ月余、彼を見、彼らを見てきた自分もまた、その軽やかな語りに深い安堵を覚えたのも事実。
一月という時間で、身分差のある二人に課せられたものは、アドールに手出しの許されるものではない。
その重さを推し量ることも、結果に言及することもまた許されはしない。
「それは良うございました」と一定の形式の言い回しに終始する。それ以上のことはただ胸の内に秘めなければならない。
まだ幼い主を惑わせてはならない。
それは必然、主との友好を疑わせてはならない、とも思える。
これほどの身分差がありながら、ミカヅキに対し一切の抵抗がないヒイロは貴重な存在だ。ミカヅキが同等だと認め、友好を求めている現実に、侯爵家が対処できていない。本来なら対処などしなくても良い案件だからだ。
侯爵家としては、身分差のある交友関係など一蹴してしまえば済む話。ミカヅキもそれを拒むことは出来ない。どれほど渇望しても叶わない格差があることは生まれながらにして、その血に刻み込まれているだろう。
端から問題にもなり得ないはずなのだ。
それが。
侯爵家から最高顧問の教師が出向き、最大限にミカヅキの言い分を呑み、事を起こそうとしている。
侯爵家でどのような変異があることなのか、自分には解ろう筈もない。知り得る立場にない。それでも、これは今までにない何かがある。
その渦中にあると見えるヒイロというただの少年は、それを分からない、と言う。
「格ってのがいまいちわかんねえ」
とは、この一月で何度も彼が口にしたことだ。
それに対し、ミカヅキは「位格」という意味を教える。
教育者のマナーコレット師は、その歴史から成り立ちを教えている。
それでも「分からない」のだ。
ヒイロのその言葉は、重く受け止めなければならないと思う。
どれほど知識を詰め込まれても、ヒイロには「分からない」という事。それを何とか分からせようとしている最中に、悪気なく「格」を軽んじてしまう。
アドールには、ヒイロの「分からない」という訴えが、幾度も繰り返された結果、大変な事態を引き起こしてしまったように思える。
「格とは何だ、って言われたら、説明はできるんですけど」
教えてもらったから、とヒイロは言う。
自主学習の時間に、一息つけるよう熱いお茶を用意しているアドールとの他愛も無い会話の中でそれを言う。確かに、彼はまだそれを「わかって」いない。
「そうですね。私も、明確にそれを言葉にすることはできませんが」
と前置いて、マナーコレット師がミカヅキとの対話を試みているのを良いことに、アドールは給仕の手を止めヒイロに向き直った。
今だけ、この部屋だけは、上流社会と切り離された空間として。
「若様のご友人であるから、私はヒイロ様とお呼びさせていただいております」
「ええーと、はい」
「先生からその様に扱う様に、と言われているからではありません。先生が貴方を若様と同等に扱う様に、というのは身分のことです。そうではなく、若様の格があるから貴方を同格としておもてなしするのです」
「ぬう」
なんとか理解しようと話に食いついてくる姿勢は、格を軽んじた事を痛烈に自覚した事の現れではあろうものの。
「やはり少し難しいのでしょうかね」
「いや、えっと、言われてることはわかります!わかると思うんですけど」
「実感はない?」
「実感、うーん、実感…」
「私はヒイロ様をとても良い方だと思っております。若様にとっても良いご友人であられる。それと同時に、私たち従者にも非常に好ましい人物として映っておりますが、それを踏まえても若様を抜きにしてお付き合いする事はあり得ないのです」
「ええーと、それは俺個人にはミカの格がない、から」
「そうですね。例えば若様がいくらお許しになっても、ヒイロ様が単独でこの屋敷に入る事は許されません。あくまでも、若様が連れている、ということが大事なのです」
「はい」
「それと同じく、私たちにも若様の格があります。例えば、私とヒイロ様が屋敷外で会ったとして、親しく会話をしたり行動を共にしたりすることも許されません」
「えっ、じゃあ町で偶然会っても声かけちゃダメって事ですか」
「そうですね。私にできるのは、せいぜい目礼まででしょうか」
「あっぶねー…俺、知らなかったら絶対大声で声かけるとこでした」
それは目に見える様。ヒイロが好ましい人物だ、というのは本心だ。ミカヅキが連れてこなければ一生、関わりのなかった少年。おそらくは、どこにでもいる普通の少年だ。
「ヒイロ様がよく私どもの仕事を手伝う、とお申し出をくださいます。それは大変嬉しいことでもありますが、今は先生の言いつけによりお断りしておりますね」
「あ、ああ、はい」
「今回のことが終わればどうなるか、というのはまだ私には予想できませんが、例えば今後ヒイロ様が何かしらの理由で仕事を任せて欲しい、と私を尋ねてこられてもお受けすることはできません。仕事の従事者にも格があり、ヒイロ様にはそれがないからです」
「えーと、それはー、ミカの格があっても、ダメだ、ってことですよね」
「そうです。そこは若様の口添えがあっても許されません。家の格があるからです」
それまで素直に話を聞いていたヒイロがついに机に両肘をついて頭を抱えて見せる。
「ああ、すみません。余計、複雑にしてしまいましたか」
「ううーん、いや、いろいろ例を出してもらって状況を考えられる様にはなったと、思うんですけど」
考えることができる様にはなった、というのはヒイロなりにアドールに気を使ったことか。ヒイロは人を拒否する様な真似をしない。格はなくとも彼なりに礼儀はある。それを好ましいと思う事と、この世界で通用するかという事は別だ。
(これは難しいのかもしれない)
上流社会に生きる自分たちは、生まれながらにして身についているものが彼にはない。それを肌身に感じることは、きっと出来ない。
言葉の意味を知っても、歴史や成り立ちを学んでも、「わかる」ことは出来ない。それが出来ない以上、ヒイロはミカヅキとの同等を得られない、と憂うばかりだった。
それが。
「なんか今日わかった気がするんですよ」
とヒイロが嬉しそうに報告してくれたことに、アドールは一瞬、なんと答えて良いのか分からなかった。
その驚きの間に、ヒイロが晴れやかに笑う。
「先生とミカと、アドールさんが教えてくれたこと全部が、こう、なんていうか、バーっと目の前にあって」
と、ミカヅキの妹姫が通う学園に足を踏み入れ、その世界を体感してきた少年は。
「俺、何があんなにわかんなかったのか、そっちの方がわかんないっていうか」
と照れ臭そうに笑った。
そのあとも何がわかったのかを言葉にしようとして苦戦しているのを見て、微笑ましくなる。
「そうですね。私もそれを、明確に言葉にすることができませんから」
と、あの日に前置いた言葉を言えば、一瞬目を丸くしたヒイロが、次に晴れやかに笑った。
とても良い笑顔だった。
この一月に学んでいた彼の苦難の表情を、一気に晴らしたそれを、言葉にする事は難しい。そう同意する。
「うん、言葉にする事はできないけど、でもわかったと思います」
それはもう疑いようの無い言葉。
「それは良うございました」
と返すだけしか許されない自分に、「ありがとうございました!」とヒイロは深々と頭を下げた。
その礼は、格を理解し得なかった頃のものと同じではなく。
自信を伴った礼だと思った。
彼を成長させたもの。事前の教養と、実体験。その二つを導き合わせ、恥じることなく向き合う覚悟を後押ししたのは、何であれ。
この衣装もまたその役目を果たし、然るべき時まで一時の休息をとる。
(ご苦労様でした)
羽箒で美しく生地の毛並みを整え終わり、ハンガーに吊るされた衣装は今。
彼と、彼の友人の未来を預かって、クローゼットへと仕舞われた。
オシエルは学舎本館二階のインナーバルコニーから、その光景を見ていた。
本館の貴賓用の裏玄関。待たせておいた馬車が迎えにくるのを待っている二人の少年は、見送りに出た生徒との別れ際に何やらやりとりをしている様だ。
ここからでは良く見えないが、それでも「今更懸念することもなし」とオシエルはその場を動くつもりはなかった。
ミカヅキが友人を伴っての妹の学園祭での振る舞いには片がついた。後に任された自分の役目はそれを侯爵家に伝える事だが。
(それが皆様方の意に添うか、どうか)
と、ミカヅキから目を離し、その隣の友人であるヒイロに目を配る。
彼は、ミカヅキとその妹姫との交流にうまく作用している様に思う。
それは先に開かれた茶会での様子も相まって、考えさせられる事。ヒイロは、貴族社会の通念と自身のおかれる立場とを理解し、この一月余の教えを自分の中で昇華させて、自在に使いこなして見せた。
(まさかここまでとは)
というのが率直な感想だ。
ミカヅキの友人として公の場でいかに振る舞うべきか、それを仕込んだ一月余。
ヒイロの仕上がりは、オシエルの想定した及第点にはわずかに及ばなかったが、それでもミカヅキに託す分には障りはないだろうと考え、学園への同行を許した。
ミカヅキの公での振る舞いには教師として絶対の自信がある。ヒイロがそれに倣い、大人しく控えると言う立場で同行する程度なら良し。ヒイロにはそれをキツく言い渡してあるという事と、公とは言え学園内という綴じられた場である事。加えて学園行事の中日であれば遊楽の面が強く、今まで堅苦しい行事にしか出席してこなかったミカヅキへの試験的な意味合いも含めては周囲の理解も得られるだろうと判断したのだ。
それが、どうだ。
ヒイロは大人しく控えてなどいなかった。積極的にミカヅキと妹との交流を促す様に振る舞い、その学友たちも取り込んで和気藹々とした雰囲気を作り上げて見せた。
これは完全に想定外だ。ヒイロは、ここで一気に化けたと言っても良い。
(彼は、実地体験で成長を見せる質だったか)
それはオシエルの経験上、今までにない成長の仕方だった。
それはそうだろう。オシエルの教師人生の中で、不完全な状態で教え子たちを手元から離したことはない。
他よりも出来る子、出来の悪い子、それなりに手をかけて教えを施してきた。それでも、どうあってもオシエルが求めた及第点に届かず合格を言い渡す事ができない子らも多かれ少なかれ出るものだ。なんとか免除してやっては、という周りの意見にも耳をかさず「達していない者に了を与えることは出来ない」という姿勢を貫いた。それはオシエルの信念と共に侯爵家の名を背負う教師としての立場があった。
(その信念が教え子たちの成長を妨げはしなかったか)
今のヒイロの様に、不完全でもあとは本人の力量に頼る方法はなかったか。そう考えて、有り得ない事だという思いが湧き上がる。
オシエルの生徒たちは貴族社会に生きる子たちだ。及第点どころか、満点を求められる生き方から逃れられはしない。多少難はあるが、あとは社交界に出て、失敗し恥をかきながら学びなさい、と言って手を離すことはできない。それが許されない社会。一度つまづいて、そこからやり直すといった寛容さはない。
(なるほど。問題点はここにある)
自分の教えにも、それを作り上げてきた社会にも。
ヒイロを見れば、優秀たり得ない子供らに「教師を目指すのは諦め、他の道を探しなさい。端から向いていない」と進言した事も、可哀想なことをしたかもしれない、と感じるのは情でしかない。あの子たちも実地体験で飛躍的な成長を見せたかもしれない、という可能性は捨てきれないが、それをして許されない社会に生きる子たちの人生をオシエル一人が抱え切れるものではないのだ。
(御館様の真意はここにある)
その思いに、ヒイロからミカヅキに視線を移す。
彼もまた、ヒイロの成長に助けられているのか、どうかは危うい。
ミカヅキが初めて得た友人だ、と老侯爵は言った。
なぜ「初めて」得る事が「できたのか」それが要ではないか。
平民社会に生きるヒイロを友人だと位置づけ、彼を貴族社会に関わらせる事には慎重になるのも分かる。
自由とは、決して安らかなものではない。暴走し、荒れ狂う。己の意のままにはならず、時として逃れたいと思うほどの過酷な状況を生む。それに翻弄される事のない様に、人が人として求める安穏のために作りあげられたのが、規律だ。自由を封じ込め、出来上がった社会。そこに生きるミカヅキは、果たしてヒイロに何を求めるのか。
教育を施し、オシエルが及第点を出した友人の姿を見て、ミカヅキは拒絶反応を示しはしなかったか。
この一月の教育とは、自由に生きる彼を規律で縛り付けること。一月前には想定していながら、実際に完成形を突きつけられて、自分の判断が正しかったかどうか、動揺したのではないか。
それは、「貴族にはならない」と、自らの意志で示したヒイロの言葉にも同様。
公の場で、私の感情を出してはならない。幼い時分からその教えを完璧に体現できるミカヅキであるために、それを聞かされた表情からは何も読み取れはしなかったが。
礼儀作法と教養を仕込まれて、自分の考えを持つ様になったヒイロ。それは見違える様な成長だ。
この学園で、実際に貴族社会の片鱗を経験し、そこから垣間みる本質を理解したというなら、それを授ける様にオシエルに要請したのはミカヅキだ。
それがミカヅキにとって不本意であったというのなら。
(次は我々の番ですよ、ミカヅキ様)
ヒイロは大きく前進した。
彼は、今のままの自分がミカヅキの友人であることに疑問は持たないだろう。
だがオシエルは、それを惜しいと思ってしまうのだ。
今日の彼の振る舞いを見て、この一月の彼の奮闘を見てきて。
(できれば彼には爵位を授け、ミカヅキ様の功臣として認められる様、取り計らうつもりではあったものの)
おそらくは、老侯爵他、近しい幹部の方々も密かにそれを期待しているのではないかと思うが。
残念ながらそれは見送るべきだ、と伝えなければならない。
ヒイロの意志が硬いからではない。
ミカヅキの意志が、いまだ柔いからだ。
先に行ったヒイロを、ミカヅキが許容できるかどうか。
悪く言えば、今まで下に見ていた彼が自分と並び立ち、さらにその上を行く現実を見せられて、ミカヅキが耐えられるかどうかが問われる。
だからミカヅキには、ヒイロと向き合うことを言い含めた。
なぜ初めての友人たり得たのか。
ミカヅキなら、必ず答えを出せるだろう。
(その様に、幼少期からお育てしてきた)
ミカヅキの出す答え、そこから始まるのだ。新たな教育と、成長と、習熟。若く瑞々しい精神は、周囲の意図しない結果をもたらすのかもしれない。
それに備える。
(我々は、それに備えるために今は見送るべきです、と申し上げて)
大きな成長を求められているのは、籠の中の雛ではない。
雛が自由に成長したとしても、囲い込める自在な籠の方にこそ、成長と変化を求められる。
自由に反対するものは、統制か、束縛か。
どちらかを選ばなくてはならない侯爵家の判断とは。
その様に、窓の下ではなく、はるか向こうの光景に思いを馳せていた時。
「レネーゼの若君様はお帰りになられる様ですな」
と、オシエルの背後からかかる声に振り向けば、老齢の学園長がにこやかに歩み寄ってきた。
「若君様の専任でいらっしゃる先生がこの様な形でお見送りされるとは」
どういたしました、とやんわり問いかけてくることに姿勢をただす。
「今日の私は客分としてあると言うことを、若様は納得しておられましょうから」
学園長は、それだけの言葉でオシエルの立場を理解した様に頷いてみせた。
「では私も隣によろしいでしょうか」
と次なる問いかけには黙礼で返し、オシエルは脇に避け学園長へ窓の真正面になるその場を譲る。それに感謝の礼を返した学園長は、窓下に見える様子に目を細め、話を続けた。
「若様が学長室へわざわざのご挨拶に参られた折、見送りは不要に、とおっしゃられましてな。今日の主役は生徒たちであって然るべきと考えるので、何分にも、と念を押されましては、そのお心遣いを有難く頂戴いたしました」
せめては私もこちらでお見送りさせて頂きたいと思いまして、と自分もオシエルと同様の見送りの理由だ、と語っておいて、オシエルを振り返る。
「若君様は実に良く先生の教えを飲み込んでおられる。素晴らしい」
美しい礼儀だとミカヅキを称え、それを仕込んだオシエルの功績を称える。
それはこれまでにも幾度となく経験してきたことではあったから、お褒めに預かりまして、と返すことは当然の流れではあったが。
いえ、とオシエルは学園長の意識を誘導する様に、外の二人へ視線を戻した。
「この度の事では私はいささかも指導をしておりません。若様が自らその様に判断されたとすれば、この学園内で生徒の皆様方と触れ合い、直接に日頃の学習成果などを実感されての、純粋なるお気持ちからの事ではないか、と思います」
この様な席では自分が主役にならぬ様に、と指導するのは容易い。だがその振る舞いに包み隠された心根がどうあるかは、指導だけで済ますことはできない。
「それを思えばこの場に招いて下さった事、若様のお心を成長させていただきました事、生徒の皆様方には感心させられるばかりでありますね」
その様な機会を与えて下さった学園の先生方にも、と口をついて出る謝辞は、社交辞令からは幾分、定石を外れた行いではあったが。
それをどう捉えたか、しばしオシエルの言葉を考えた様な沈黙の後、学園長は「なるほど」と窓の外に目をむけたまま頷いた。
「先生も、若様をお育てする新たな道を模索しておられる様だ」
そう言われて、思わず学園長に視線を戻せば、彼は心得た様に笑みを返す。
「私も教育者として多くの子供たちを育てる事に注力した身です」
たったそれだけの言葉で、今のオシエルが辿っている道は、先を行く者たちが切り開いてきたものだということが分かる。
そして、それを超えていけるかどうかが問われている。
ミカヅキの預かり知らぬこの場で交わされたそれは、社交辞令から外れた行いが引き起こした事。
(若様が求めておられるのは、これか)
レネーゼの名を背負うためにこそ新たな道を探したい、とそう言った幼い後継者の立志を思う。
「ああ、出られる様ですな」
と学園長が窓の外の様子にわずかに背を正した。
二人が、馬車に乗り込んだ。それを確認し、御者の一人が扉を締め。
オシエルも学園長の隣で背を正す。
夕刻が迫る中、学園の外へ向かう並木道は影を長く伸ばしている。整然と舗装された石畳は、馬車を支障なく進ませるために敷かれたもの。
その道を当然の様に駆け出す侯爵家の箱型馬車。道を外れる事なく、ただ真っ直ぐに敷かれた道を進んでいく。
視界の端で、学園長が深々と頭を下げた。
オシエルもそれに続く。
二つの最敬礼は、紋章を刻んだ馬車が学園の門を過ぎて遠くなるまで捧げられた。
ヒロ 「返礼品、っていうか、招待状なんだなあ」
返礼品っていうか、学園祭に招待してくれた妹に対してのお礼と
学習発表の成果に対して「良く頑張りました」の意味を込めて
簡単な贈り物を添えてお手紙を出します
これは以前にマリスがミカに対して
「姫様にもっとお手紙を書いてあげて欲しい」
というお願いを聞いていた為
なんだ手紙送っとけば良いのか、って感じでミカが律儀にお手紙を書いて
それを学園祭終了後に届く様、執事さんに申し付けているのを見たヒロが
「学校で会うんだから学校で渡してあげなさいよ!!」
ってびっくりする4コマをどこに差し込むか悩んで
いや蛇足だなと思ったので、ここでご披露
(蛇足だと思ってるのにご披露する天使ツアーズクオリティ)
学校で直接手渡し、となると
そこは「公の場」という事で、周囲の目を気にしないといけなくなるので
ミカは後日手紙で送りつけたいもののヒロは妹思いです
今回は妹との関係を良好にする(欲張れば学友とも)が目的なので
ヒロの言い分には逆らいづらい
「公の場で手渡すとなると、俺からそのまま渡すわけじゃない」
「あ!それは習った!賄賂を疑われるから公の場での贈答は当人同士で行わないとか」
「そう。後はなるべく周囲にそれを知らしめるために儀式的に行われる」
「それも習ったけど、妹相手でも?」
「念のためな。普通なら従者が控えていて、主人の命を受けて従者の懐から出す」
「あ!それな!それやりたい!俺にやらせてくれ!」
「はあ?やりたい?なんでだ、大体お前の位置づけを従者にするつもりはない」
「友人枠だろ?わかってるわかってる。それでも格で言うと俺が適任じゃね?」
ここで執事さんに確認
今回の場合ならヒロでもオッケーだろう、という事でヒロが手渡す役目に
「なんでだ、何も面白い事にはならねーぞ?渡すだけだぞ?それに念のためだからな?大体周囲の目があるとこで渡すかどうかも分からないし」
「心配するな、色々な格を想定した贈答の所作は習った!習ったからには実際にやってみたいだけ!」
「あ、それは分かる」
ミカと妹の関係のために名乗り出たんじゃないんかーい!!
ていう4コマがあった
この内容量を4コマにするのがもう大変
(いつも大体そう)
天使御一行様
|
愁(ウレイ) |
天界から落っこちた、元ウォルロ村の守護天使。 |
魔法使い |
|
緋色(ヒイロ) |
身一つで放浪する、善人の皮を2枚かぶった金の亡者。 |
武闘家 |
三日月 |
金持ちの道楽で、優雅に各地を放浪するおぼっちゃま。 |
戦士 |
|
|
美桜(ミオウ) |
冒険者とは最も遠い生態でありながら、無謀に放浪。 |
僧侶 |