ゆっくり歩んでくる、八代神を黒龍は見ている。
八代神は、その黒龍に
「長きものは、人の姿の方が楽のようじゃの?」
と、声を懸けた。八代神の瞳の中で精かんな男がにこりと笑っている。
その男は
「天空界とは名ばかりじゃ。丸で化け物屋敷の様じゃ」
と、言う。
祭神と成った者達がやがては天空界に上がってくる。
狸狐の類はいうまでもなく、申神に鬼神、はてには百足の神まで居るのである。
「まあ、言うな。白峰も居るではないか?」
これも元を正せば蛇である。
「まあの」
「お前とは古い付き合いじゃ」
慰めとも付かない事を言う。
同じ長き物同士ではないかと言いたいらしい。
「向うから来たのが、そも初めだ」
白峰など相手にしたいわけではない黒龍なのである。
「知った事ではないか?」
八代神は黒龍の胸の内を量って苦笑した。
「相手が悪いわ」
白峰が懸想した相手が黒龍の想い女であったのが事の発端であった。
「仕方がなかろう。お前が惚れるほどの女子じゃ。白峰もきすつなかろう」
黒龍が者と諦めきれるものならば、白峰も千年もかけるわけがない。
「妻は得ぬのか?」
八代神の問いに黒龍は地上を見下ろした。
「わしの妻はあそこに居る」
言われて八代神も見てみれば、
耳を掃除しろと言う政勝の頭を膝に抱いているかのとである。
「わしの替わりが、あれか?」
と、黒龍は呟く。
政勝はそのうち、そのかのとの腕をとると
「耳掃除はもうよい」
と、言出す。
「見ておられぬわ。あのにやけた男がわしの替わりか?」
黒龍が八代神の同意を求める様に言った。
が、二人の様子をじっと見ていた八代神は
「とは、言うがの、あれらはのう。もう八代になっておる」
「そ、そうなのか?」
「お前なぞとうに負けておるわ」
「そうか」
政勝、かのとの縁は思いの外深い物であった。
黒龍がもう一度、二人を見遣れば
政勝がじゃらけてかのとの襟に手を入れている。
「だんな・・さ・ま・・昼間から・・」
かのとが窘める声がすでに艶を帯びている。
思わず黒龍も
「これじゃ!政勝。ちいとは遠慮せい」
と、声を出した。
その声が政勝に届いたのか、政勝がふと後ろを振向いた。
「どうなさいました?」
かのとに聞かれると、政勝は
「いや?なんぞ呼ばれた様な気がしての・・・。気のせいじゃ」
かのとを見直すと
「待たせた」
じゃれの続きを始める。
「待っておりませぬ」
ぷいと横を向くかのとを寄せつけると
「ほんにか?」
かのとの口を啜り上げながら
政勝の手がかのとの裾の中に割り入って行くのである。
最新の画像[もっと見る]
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます