明くる日の朝。
城の中の拝謁の間である。
主膳に呼ばれて四方を護る四人の陰陽師が顔を揃えた。
と、言っても何かあったわけではない。
歳の初めに、必ず主膳は四人を招くのである。
四人の前に座ると主膳は深々と頭を下げた。
「今年も都の守り、何卒宜しく願い奉る」
其れだけであるのだが、主膳はその折り目筋目を崩す事なく、
必ず頭を下げるのである。
それがすむと
「おお、そうじゃ」
と、相好を崩す。
一穂の事なのである。
四人も揃うておるのは寿ぎの日を決めるには丁度良いのである。
「?」
「ぁ、いや、元服を前にの」
髪揃えの儀式を何時にしたらいいかと言うのである。
そこに、呼ばれていたのであろう。
道守より帰って来ていた海老名が一穂を連れてはいってきた。
「ささ。一穂様こちらに」
主膳の横に座らせる様にするのを見ていた四人の目が
ちらりと動くのに主膳は気がついていなかった。
髪揃えの儀式についての日取りが決ると四人は退出した。
「どうしたものだ?」
まず、不知火が口を開いた。
「判らぬ」
海老名が連れてきた一穂の後ろを黒い影がつかず離れず蠢いていたである。
それが何であるか善嬉にも判らない。
その疑問をもう一度口に出すしかない。
「何だと思う?」
善嬉の言葉に答える者がいなかった。
四人の想いを取り纏める様に白銅が口を開いた。
「判らぬのだ」
確かめる様に
「お前でも読めぬか?」
と、ひのえ、事、澄明に聞きただした。
「禍禍しい者には間違いはない」
一穂を見た時のぞっとする想いが蘇えるのだろうか、澄明の口数も少ない。
「それはわしにも判ったが・・・何故あのような物が?」
不知火が考える様に言う。そして
「ここ、しばらくの事であるな?」
澄明との縁組の認を主膳から貰い受ける為に
城に何度か足を伸ばしていた白銅に問いただした。
が、白銅とて直接、一穂を見たのは今日が久方振りの事であった。
「・・・」
黙って聞いていたひのえが
「政勝殿に聞いて見ましょう」
考えていた事を口に出した。
「政勝?」
不知火は訝しげにきいた。
一穂の近習でもない政勝に何が判るのかと思ったのである。
「はい。ずううと御側におりましたそうな。養育係を仰せ付かったそうです。」
「ふむ」
と、なると話が違ってくる。
まずは、そうしてもらおうという事で話しが納まった所に
「所で、お前ら日取り整うたのか・・何時になった?」
と、善嬉が尋ねた。
「え」
「ぁ。春に・・雛の日に」
ひのえに代わりに白銅が答える。
「ふむ」
照れた二人が黙り込むと
「男子を先になすの」
と、善嬉が言う。
「あ、」
小さな声を澄明が上げたのを善嬉が見詰たので、
白銅と澄明が二人の胸の内は同じだったらしく
白銅が替わりにその声の思いの内訳を話した。
「いや。どちらでも良いが、先に言わるると・・・」
と、言うのであるが、善嬉は頓着無しに笑って見せた。
「早に仕度が出来て良かろう」
善嬉は先を読んだ訳ではない。
二人の性の兼ね合いを読んで言うただけであるから
必ず当たる訳でもない。
が、一種の暗示もあるのかもしれない。
やはり大方その通りになるのである。
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