憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

空に架かる橋   8

2022-09-17 15:56:49 | 「空に架かる橋」

参戦なぞできるはずもない東さんでさえああだったから、
あたしは、当然、哲司のことが気になっていた。
目の端でさっきから哲司を盗み見しているんだけど、
明美が哲司になにか、話しかけていた。
しばらくすると、
哲司は自分の服にきがえだして、
たった一つの武器である自動小銃をベッドの上においた。

ああ。哲司は部隊にもどるんだ。

明美は?
明美は哲司の傍をはなれると、
あたしの傍をすり抜けざまに伝言をよこしてくれた。
「哲司の出発の準備をしてくる」

あたしは明美に返す言葉を見つけられなかった。
多分哲司も朝の地雷の音で部隊の状態を判断できたんだ。
そして、部隊と連絡を取ったに違いない。
いつのまにか、あたしは哲司の傍にちかづいていた。
「いくのね?」
「ああ」
哲司がひどくぶっきらぼうにこたえたのは、
少しでもココにいたくなる自分をおさえつけるためだったんだろう。
「あんた達をみおくってから、部隊にもどろうとおもってたんだけどな・・・。
そうもいかなくなっちまったよ」
「そうなの・・・」
ひきとめちゃいけないんだ。
ほんの少しでもひきとめちゃいけないんだ。
明美でさえ笑っておくりだそうとしているんだ。
頭じゃそういってるのに
あたしの心はこういうんだ。
その明美のためにももうすこしだけでも、最後の二人の時間を作ってあげたい。

「ねえ。お昼。思い切り豪勢なものにするから・・・。
そ・・それをたべてからにしようよ・・・」
不覚にも涙がこぼれちゃうじゃないかあ。
「ん・・」
「もう、どうせ、ココの食料もすててゆくしかないんだもん・・。ね」
今すぐにでも出発したそうな哲司が明美が出て行った扉をみつめていた。
「そうだな・・・。最後だな・・」
明美との食事が最後になるということだけじゃない。
哲司にとってもひょっとすると最後の食事になるかもしれない。
ココを一歩外に出れば哲司は一兵にすぎなくなる、。
敵兵はもう直ぐちかくまできているだろう。
哲司が無事に部隊にたどり着ける保証は無い。
仮にたどりつけたって・・・。

「そうだな・・・」
哲司は時計をみつめた。
「そうしよう」

あたしはあわてて、明美の行っただろう部屋にはしっていった。
「明美。哲司の為にご馳走をつくろうよ・・・」
明美の後姿を見つけてそういったとき、
明美はないていたんだ。

哲司の前で涙一つ見せず気丈に振舞った明美が
肩を震わせてないていたんだ。
「明美・・・」
心配そうな声に明美はちょっとふきだして、背中をむけたまま、てを上げてオッケーサインをつくってみせた。

そして、あたし達はレトルト食品をかきあつめて、ラベルを確かめて
(ご馳走)を吟味しだしたんだ。

だけど・・・。
あたしが哲司を引き止めなければ
すくなくとも
明美の眼の前で
哲司が死ぬことはなかったんだ。



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