昼食を終えると哲司は
「いってきます」
と、ちょっと、そこら辺に旅行にでも行くように
簡単に出発をつげた。
立ち上がった哲司を見送るために明美も哲司のあとをついていった。
それが、哲司の生きてる姿を見る最後になったんだ。
玄関先での長い抱擁のあと、
明美は哲司の瞳の中に笑顔を残そうと
つとめたことだろう。
だけど、そのあと・・・。
玄関を出た哲司は鍛え抜かれたスナイパーのたった一発の銃弾に
頭を打ち抜かれ
明美の眼の前で地面にくずれおちた。
即死だった。
哲司に取りすがる明美の看護服は哲司の血に染まり、
明美の傍に近づいた、影は
明美にむけて、威嚇の銃筒をむけた。
明美の傍らを何人かの兵士がすりぬけてゆくと、
そいつらは、あたし達のところへやってきた。
武器など持たない患者も先生もあたし達も
ただ、大人しく、てをあげるしかなかったけど、
兵士達は私達に銃口をむけつづけていた。
なんで?
あたしの疑問は奴らの片言でりかいできた。
奴らは
撤退するあたし達の国の兵士の
地雷作戦に深追いをあきらめ、
地図を広げ、
この病院を拠点にすることにしたんだ。
病院を拠点にする。
これは条約違反じゃないか・・・。
だけど・・・。
そんなことが今彼らに通じるはずもない。
そして・・・。
奴らはこの病院をめざしてきた。
そこに、哲司がいたんだ。
軍服を着た男は彼らにとって「敵」でしかない。
おまけに哲司は「武器」をもっていた。
殺されるより先に殺してしまえば、
身の安全は確保できる。
彼らの死への恐れは
哲司を見逃す事をゆるさなかったんだ。
そして・・・。
彼らがこの病院に迂回したわけはまだあった。
地雷の爆破に巻き込まれた
兵士の手当て。
これも彼らの目的だった。
そのもっとも悲惨な地雷の被害者とあたしのかかわりが、
明美を千秋をも「悲惨」に
まきこんでゆくことになる。
だけど・・・。今、
明美・・・。
あたしは、玄関先で哲司を抱きかかえる
明美の傍にどんなにいってやりたかっただろう・・・。
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