憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白い朝に・・・9

2022-09-08 19:56:33 | 白い朝に・・・(執筆中)

君にも辛いことだと思うし、僕にとっても辛い・・瞳子は・・娼婦のように僕を誘うんだよ・・」

「え?」

私は教授が端的に事実をしゃべろうと努力していると、理解はできた。

だが、教授に告げられた事実が、すぐに、理解できなかった。

「暴行を、暴行と認めず、たんにしゃべりあうくらいのそんな接触のひとつにすぎないと、考えることで、恐怖や傷を緩和しようとする一種の治癒現象なのかもしれない。だが、そんな考え方を容認できる瞳子じゃないから、別人格が生じて、瞳子を支配してしまうのかもしれない。

そんな状態の瞳子を君にもらってもらうわけにはいかないだろ?

目をはなしたすきに、他の男にさそう・・そんなことをするかもしれない。

瞳子にさそわれた男が瞳子をどうするか。結果は火を見るよりあきらかだろう。

別人格がしでかしたことで、瞳子の本来の人格が完璧に破壊されてしまうだろう。

そうでなくとも、瞳子が妊娠したとき、それが、君の子供だという確証も信頼ももてないんだ。

こんな状態で、瞳子を嫁にだすことはできないんだ」

私は聴かされた事実と、教授の思いと、瞳子の行動への判断と、自分の思いと

これらをいっぺんに頭の中で遠心分離機にかけた。

「教授、私にはまだ、うまく理解できていないのですが、瞳子がなんらかの治癒現象でそういう行動をおこすことが矯正できないものであるとするなら、このまま、わたしとの話を白紙に戻したら、瞳子は、どこの誰ともわからない人間になにをされるか、わからないということになりますね。それは、私にとって、もっと、つらいことです。教授もそれでよいのですか?いやないいかたになりますが、どこの誰とも判らない人間に瞳子がぼろぼろにされてしまうくらいなら、瞳子が望んでいた相手に渡したほうがよほどよいんじゃないですか?」
教授が私を見つめなおした。私の尋ねたことは教授の核心にふれていたに違いない。
「だけど・・」
できるものなら、教授もそれを望んでいる。だが、こんな状態になった娘を「さしあげる」わけには、いかない。だけど、教授の本音は私が指摘したとおりだったのだろう。
だけど・・と迷った言葉に力がないのは、だけど、君はそれでよいのか?と、いう瞳子を託したい思いに心が傾くせいでもある。でも、教授は人として、私のこの先の人生を狂った娘の伴侶としておわらせたくないという温情も持っていた。
迷った思いが教授に「だけど、そんなことはできない」といいきる勇気を持たせなかった。
教授の中の葛藤に終止符をうたせる言葉を私は考えていた。
「教授、私が教授の言うとおり、ここで、婚約を破棄したところで、私は一生、瞳子を見放した自分に苦しむのは、もう、判っているのです。そんなことよりも、瞳子が回復する、いや、たとえ、回復しなくても、瞳子にとって、私にとって、教授にとっての活路を探しましょう。
精一杯、人事をつくさずにおいて、なにも解決しないと私は思うのです」
自分の手に視線をおとすと、教授は抑揚のない声でまた、悲しい答えをわたしてきた。
「君は・・まだまだ、若い。きっと、すばらしい女性にめぐり合えることができる。瞳子のことで、君の人生を犠牲にはできない」
私は教授の悲観的な考えをどうくつがえそうか、そればかり考えていた。
「教授。もう、私は瞳子というすばらしい女性にであってしまったのですよ」
私の言葉に教授が一声高く嗚咽をもらした。
「あんなことさえ・・なければ・・あんなことさえ・・なければ」
愛し愛されるほほえましいカップルが教授の心に幸福感を分け与えてくれていたはずだった。
「教授、とにかく、否定的に考えるのはやめましょう。瞳子はまちがいなく、私を望んでいる。まず、これをたしかめさせてくれませんか?」
うろんげに顔をあげると教授は私に首を振って見せた。
「なぜですか?」
教授はわかってくれまいかといわんばかりに、私にまくしたてはじめた。
「君は私に言いたくないことを言わせるという、その前提を忘れてる。君にあきらめてもらうために私は事実を話したに過ぎないんだ。じゃ、なければ、なんで、瞳子の恥をはなしてまで、君に否定的だの、悲観的だのと説教されるためにはなしたんじゃない」
教授の興奮を聞きながら、私はやっと、教授が一番、もがいた部分を理解できた。
「いえ、十分、悲観的です。教授が婚約を白紙にもどそうとした大きな原因がその悲観的な物事の解釈です」
教授はじっと、考え込んでいた。どこが、悲観的だといわれるのか、自分自身で考え直しているようにも見えた。
「瞳子があいてかまわず、父親さえ誘う、そういう、解釈の仕方がまず、悲観的です」
教授が大きく目を見開いた。そういう解釈でないのなら、ほかにどう考えられるのか?
愛娘が娼婦のごとく、男を誘う、こんな娘になってほしくて、21年間育ててきたんじゃない。教授の20年の月日が水泡に帰し、より、もっと、悲惨な未来を付随させていると、なる。
じゃあ、どう考えればいいんだ。
教授に畳み掛けられる前に私は自分で発した説得の鍵をみいだすために必死で考えていた。



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