憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

踊り娘・・・1

2022-12-21 14:20:13 | 踊り娘

剣の舞を踊るサーシャの足がおちてゆくそのポジションを
見つめ続けた男は
やがて、
イワノフの手をシッカリと、握り締めた。

***出番を控えている姉であるターニャの元に
サーシャの事実をつたえにいくことは、つらいことでもある。
だが、
キエフの大物舞踏家が、サーシャを預からせてくれという。
姉妹でありながら、
ターニャはこんな、地方の劇場まがいの
酒場の舞台から、抜け出ることも出来ないにくらべ、
妹の舞踏の技術は
世界を相手にする国立舞踏団の花形スターの目に十分な可能性を
秘めている。

イワノフがターニャに妹サーシャのチャンスをつげるのを、
渋りたくなるもうひとつの要因がある。
ターニャは今、この劇場のソロマドンナである。
が、それは、
ある一定の境界の中においてである。
ある時間までは純粋に舞踏、レビューで、舞台をかざるのであるが、
ある時間を過ぎると、
性的な刺激を内包する出し物に変わる。
簡単に言えば、
乳房をさらして、踊ることもざらであり、
そのサービスの見返りに客席から祝儀をもらう。
もちろん、それだけではない。
多くの場合、この舞台を布石にして、
パトロンを探すということである。

踊りだけで、ソロマドンナの位置に君臨してゆくことは、皆無に等しい。

ターニャは両親をウクライナの列車事故でなくし、
妹と二人きりになったとき、
好きだった踊りで身を立ててゆくことの出来る
この劇場に勤めだした。
それから、3年後に高等学校を卒業したサーシャもここに
つとめだしたのである。

そして、ターニャはかなり、早いうちから
ソロマドンナの地位を得たのであるが、
昨年末くらいから
客の人気にかげりがではじめてきた。
それでも、ソロマドンナの位置にターニャを座らせておいたのも、
イワノフの個人感情のせいである。
「結婚してくれないか」
20歳以上年齢も違う。
ターニャが返事に戸惑うのもわかる。
「いそがなくていい」

と、いってはみたものの、
ターニャがこれ以上ソロマドンナを
張ってゆくことは困難になってきていた。
「どうするかね?アフタータイムにかわるか?」
つまり、舞台で胸をさらけだして踊るかときいている。

ターニャは
「え?」
と、声を上げた。

イワノフに、ターニャの驚きはなぜかわかる。
プロポーズした男が
なぜそんなことをターニャにきりだすのか?

***ぐっと息をのんで、イワノフをみたターニャの顔が思い出される。
プロポーズはプロポーズ。
ビジネスはビジネス。
割り切った考えを理解しろということが、土台むりであろうが、
イワノフの計算もある。
ターニャをおいつめてゆくことで、
イワノフとの生活がいかに安泰なものであるかを
しらせてゆこうと言うのである。
だが、残念なことに
ターニャをおいつめる者が自分であり、
救いの手を差し伸べるのも自分である。

海につきおとしておいて、
たすけてやろうかといっても、
自分で泳げるうちは
ターニャとて、イワノフにすがってきはすまい。

そして、サーシャのことから、ターニャはますます、おいつめられてゆくだろう。

舞踏家という夢を描くのはターニャとて、おなじであろうに、
ターニャのこの先は芸術とは、程遠い
色艶の世界しかない。

そこで、胸をさらけだして踊ることなど、させたくないのが、イワノフである。
だが、
いくら、イワノフがターニャをかばいたくとも、
出来ないことである。
踊り娘は他にもたくさんいる。
これ以上、イワノフのひいきで、ソロ・マドンナに据え置くことが、無理に
なってきているターニャの実力でしかない。

ターニャが踊りをつづけてゆくとしたら、
脱ぐしかないといって、過言でない。
身体を武器に踊りを担うしかないにくらべ、
サーシャは一流の舞踏家になれる素質を有している。

結婚を逃げ場にしてくれというわけではないが、
一人の女性の夢がついえてゆく。
そう思うとイワノフはターニャに平凡な結婚生活を送ってほしいと
考えたのである。
もちろん、二十歳も年齢が違うイワノフであるから、
ターニャの結婚相手に自分を考えることは、なかった。

だが、
ターニャに踊り娘としての限界、
ターニャの才能がそこまでのものでしかないことを
告げたとき、
イワノフは思わぬ告白をしていたのである。
「君がよければ、結婚してくれないか」
思わず口をついた言葉が先で
イワノフは、やっと自分のターニャへの気持ちを確信した。

心のそこのどこかで、
ターニャがサーシャでなかったことを喜びながら、
イワノフは
手短にサーシャをキエフの舞踏家に紹介したいきさつを話した。
ビデオに収めたサーシャの踊りが舞踏家の目に触れると、
幾日も経たないうちに
舞踏家自ら、ここに尋ねてきたのである。



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