「だから・・・さっきも言ったように・・・イワノフさんは姉さんのことを愛してるんだろうって思った・・から」
「ばかね。それは、なぜ、イワノフさんがプロポーズをしたかってことでしょ?
あたしが聞いてるのは
なぜ、あたしが云というと思ったかって事・・・」
「ああ・・・」
確かに尋ねられたことへの、返答にはなって無かった。
「う~~~ん」
ナゼだろう?
なぜ、ターニャが云というと思ったんだろう?
「だよね。
父親かと思うくらい年がはなれていて・・・
イワノフさんにとっては、
美人でスタイル抜群で若い・・こんな姉さんと一緒になりたいだろうねってのは、判るけど
逆を言えば・・・
凡庸でもう、50歳ちかい年齢・・
わざわざ、こんなじいさんと一緒になりたいと思うほうがわからないよね?」
「・・・」
だから、尋ねているんじゃないかと、切り返す言葉を飲んだのは
自身がイワノフのプロポーズになんの違和感も感じてなかったと気が着いたからだった。
「たぶん・・ね。
姉さん・・一番大変だったから・・・。
ウクライナの列車事故で・・父さんも母さんも死んじゃって、あたしのために、
姉さんが父さんのかわりに稼いで、
あたしのこと、支えてくれてた。
だから、姉さんは甘えたい時にも、頼りたい時にも、ずっとひとりでがんばってたから・・・。だから・・・。
ひょっとして、イワノフさんに、父さんみたいに甘え、頼りたい姉さんの底の弱さ?
そんなのを・・・イワノフさんになら見せられる。イワノフさんなら頼れる。
あたしには、そう・・・みえたのかもしれない。
だから、云というっておもったのかもしれない」
ふた月はあっという間にすぎた。
サーシャのキエフ行きの準備と
アフターでの演目のレッスン。
振り付けを覚えるだけでも、
今までとは、違う媚たしなが
随所にはいり、
それが、ターニャの勘を狂わせる。
振り付け師の厳しい叱咤が遠慮なくターニャを叩く。
「それでも、ソロをはっていたのか」
悔し涙を飲み込んで、やっと、舞台にたつ初日にアフターの踊り娘がターニャに声をかけてきた。
「あんた・・・どうして、イワノフさんと一緒にならなかったの?」
傍目からみてさえ、イワノフがターニャに特別な好意をよせていると判ると、いうことになる。
もう一つ、言えば
ターニャがアフターに来るという事は
いわば、都落ち。
そのうえ、胸をさらけだす以前の
妖艶なしなひとつに、戸惑い煩悶している。
「最初は・・・サーシャのために、
お金がいるのかなって思った」
サーシャのキエフ行きは皆の知るところとなっていた。
「でも、それだったら、イワノフさんに出してもらえば済む事じゃない?」
つまり、アフターはパトロンを捕まえにくる場所でしかないと、彼女は考えている。
だが、ターニャはしなひとつつくるに、
戸惑うばかりで、
どうやら、身体を張ってパトロン探しというわけでもなさそうに見えた。
イワノフをパトロン、あるいは、伴侶に
する気になれず、他を捜しにきたにしては、
あまりにも、吹っ切れない迷いがありていにですぎていた。
「う・・・ん」
頷いたきりターニャは返事が出来なかった。
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