憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

邪宗の双神・終   白蛇抄第6話

2022-12-22 11:09:43 | 邪宗の双神   白蛇抄第6話

森羅山を抜ける頃になって波陀羅に白銅が
「波陀羅。男はもういやか?」
と、言う。
「は、はは・・・もう、懲りた」
淋しい顔で笑いながら、波陀羅は答えた。
「そうか。わしは、御前がいっそ男になれば良いと思うての」
「は?」
突飛な事を言い出した白銅である。
波陀羅も澄明も顔を見合わせていた。
「いっそ、波陀羅。御前が一樹になりすましたらどうかと思うての」
「え?」
澄明は白銅の言う意味合いが、すぐさまに理解できず、
突飛な進言に虚をつかれていた。
だが、波陀羅のほうは、一度は一樹に成り代わって死のうとまで思ったせいもあり、
一樹に成り代われるなら成り代わってしてやりたいこともあった。
「そうじゃの。我が子と通じるような事をしでかした鬼じゃ、
いっそ、それが良いかもしれんが・・・」
波陀羅の言葉が止まった。
「お、男になぞ・・・なれるのですか?」
澄明も鬼が映し身を良くするのは知っているが、
女鬼が男になったのは見た事なぞはなかった。
「男に映すはできぬ事はなかろうが、
映し身はその本人が生きておらねばできる事でない」
波陀羅の答えに
「ああ?ああああ」
二人が同時に声を上げた。
「一樹の身体を使えばよいが」
白銅が大きな声で言った。
波陀羅なら出来る事である。
「何を言う?」
波陀羅も流石に考え込んでいた。
「いや、其れが良い。勝手な言い分かもしれぬが、
さすれば一樹は死んでおるのだから既に因縁通り越しておるに。
生きておるなら、いや、生き返ったなら比佐乃は殺したけれど殺しておらん。
因縁通ってもおるし、おまけに比佐乃は罪に苦しまずにすもう?
其れに言うたでないか?乗っ取った者がした事でも因縁になると」
白銅が強く言い出すと澄明もその思いつきに手を打つものがある。
「ああ。そうだ。ならば、なんぞ、よい因縁に切り返れば良いでしょうに」
「ああ。成る程」
比佐乃にとっても一番良い事であろう。
今の世で波陀羅が比佐乃を一番に思うているのであれば
澄明に言われた様に魂を修復してやれる事も、
逆に比佐乃が一樹を思う気持ちで波陀羅の魂を修復してやる事も叶う事である。
波陀羅は
「比佐乃を救えるという事でもあるな」
呟くと二人を見ながら大きく頷いた。

それで、慌てて澄明と白銅は一樹の死体を掘り起こす事になった。
畳針を抜いてみれば、双神は既に一体の者に成変わっていた。
双神の陰が揺らぐ様に湧いたかと思うと
その影が小さな榛の木の新芽の中に吸い込まれて行った
「戻れたようじゃの」
波陀羅が一樹の身体の中に入り込むと
「澄明。なんぞ他におる。何の神か知らんが、今、眠っているに。起こしてみるわ」
と、言出す。
不思議な事があるものだと思いながら二人が顔を見合わせていると、
「ああ・・・飛び出した」
波陀羅の声が聞こえた。
「え?」
「ああ?」
一樹の身体を飛び出したそいつは
波陀羅、いや、一樹の前で両腕を延ばしながら大あくびをした。

その、姿で二人も勿論、一樹にも判った。
三人が同時に叫んだ。
「ああ!雷神ではないか」

     終



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