憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

踊り娘・・・4

2022-12-21 14:19:24 | 踊り娘

それにしても、
「イワノフさんも何を思ってそんな大物のところに・・・」
ポジションが正確だからって、
そんなことくらいで驚かれてたら、
ポリジョイサーカスの綱渡りなんか、
正確なポジションが当たり前。
命がいくつあってもたりやしないだろう?
そんなことを考えたら特に驚くことでもない。

「イワノフさんの目は確かよ。コンドラテンコはあなたをキエフの
プリンシバル育成所に入所させたいと、もうしこんできたのよ」

プリンシバル育成所への招待?
飛び出してきた話が大きすぎて
サーシャにはこの話が真実であるとは思えない。
「まさか?
それだったら、なんで、プリンシバル関係の人がじかに
あたしに話しにこないわけ?」
サーシャの疑念はもっともだと思う。
「いくら、イワノフさんが口をきいたからって、
あたしに断りもなし、入所を決定する権利はないわ」
サーシャは関係者が来ないわけを
そんなふうに、想像する。
でも、それは、本当のことだと信じたがってるサーシャだということにもなる。
そして、ターニャは
イワノフがサーシャに先に話さず
ターニャに任せた本当の原因を話すべききっかけなんだと思った。
「イワノフさんはまず、あなたが未成年だということ、
つまり、あたしがあなたの保護者だということを
尊重して、私から、あなたにきいてほしいといったの」
でも、それもおかしな言い訳だと思う。
だいいち、サーシャはイワノフにとって1従業員なんだ。
未成年であるといっても、自分で金をかせぎ、
きちんと生計を立てている以上
社会人。大人。1個人としてあつかわれるべきであろう。
「だったら、姉さんに話すときにあたしもよんでくれればよかったんじゃない?
変だよ?」
やっぱりサーシャは聡い。
淡い期待でも、目いっぱい膨らませれば、はじけたときは辛く痛い。
サーシャの防御本能が
美味い話をうのみにしちゃいけないと
サーシャを守ろうしている。
「あのね・・・」
ターニャは大きく息を吸い込んだ。
その息と一緒にじゃなけりゃ、思いが定まらぬ返事を持ってることでしかない
イワノフのプロポーズのことははなせそうになかった。
「姉さんもそのことをこれから、あなたに相談しようと思ってたんだけど、
イワノフさんが姉さんにあなたへの話を任せたのは、
あなたの進路によって、
姉さんがイワノフさんのプロポーズの返事を
どうするか、きめるだろうって、考えたんだと思うんだ」
とたんにサーシャが戸惑った顔をした。
話の筋が良くわからないのだ。
「イワノフさんが?姉さんにプロポーズをした?」
「そうよ」
「イワノフさんが?」
「そう」
「あの・・イワノフさんが・・・」
「・・・」
「え?で、姉さんは云ってっ言ってないってこと?」
自分の話が後回しになるのもそっちのけで、
イワノフのプロポーズに話が集中しだすのも
イワノフのプロポーズが意外過ぎたのだろうと思っていたターニャは、
「云」と言ってないのかとたずねたサーシャが逆に意外だった。
「あなたには、あたしが「云」と言うほうが、不思議じゃないってことだよね?」
サーシャはもう一度、自分の頭の中を見渡して
「云。そうだね」と、答えた

「なんで?」
ナゼ、あたしが云というわけ?
「なんで・・・って・・・」
サーシャは自分の頭の中を見回す。
「なんとなく・・・
う~~~ん。イワノフさんは優しい目でいつも、姉さんをみてたし・・」
サーシャの言葉をきいた途端にターニャの反撃が始まりだす。
「優しい?
イワノフさんが?
わけないわ。
あの人は・・・・。
そうよ。
脅しよ。
自分と結婚しないなら、裸で踊るしかないって、
人の弱みに付け込んで
結婚をちらつかせて・・・・」
癇走って喋るターニャを呆れ顔でみていたサーシャが、そんなターニャに
「あたしには、ロマンチックにドラマチックにプロポーズしてくれなかった。
乙女の結婚への夢はプロポーズの一言から花開いていくのに
イワノフさんは夢を踏み潰す言い方しかしなかったって、
ようは、そういう不満を言ってる・・・・って聞こえるだけなんだけど?」
「え?」
あるいは図星であったのか、
この芬々たる思いは、サーシャの言うとおり?
思いを分析されて、
サーシャはその分析結果にいっそう戸惑った。

『じゃあ・・・私が優しく・・ロマンチックに・・・愛情一杯でプロポーズされてたら?』

云といったのだろうか?

ターニャの戸惑いを見透かして、サーシャが笑う。

「姉さんこそ踊りと結婚を天秤にかけてるんじゃない?
本当に踊りたいなら、踊ればいいし
結婚は踊りとは、別問題だよ」
サーシャに
「今更ながら、判っている。
当たり前の事じゃない」
と、ターニャが言い返すとサーシャは
かすかな笑いを浮かべた。
それは、どこか、自嘲めいた悲しい笑いにも、見えた。
「そうよね。
判っている。
あたしは姉さんみたいに、恵まれたプリマドンナじゃないから・・・。
どうにかして、踊りを続けていきたいって、
それが、いつでも、最初。
だから、たとえば、結婚?
そんな事ひとつだって、考えの中にはいってきやしないのよ。
でも、姉さんは、結婚を考えることが出来るじゃない?」
サーシャは「踊り」しかないのに、
ターニャは結婚を考えられる。
すなわち、その状況自体が結婚と踊りを天秤の台に載せているという事であろう。
サーシャの言い分に百歩譲って見たとて、
ターニャには譲れない部分がある。

「だけど、あたしは、確かに結婚と踊りを両手にもとうとはしている。
でも、結婚と踊りを天秤なんかにかけてはいないわ」
サーシャはいっそう、深いため息をついた。
「そうね・・・。
すくなくとも・・・そう、見えるわね・・・」
棘をふくんだように聞こえるのは
ターニャの受け止め方がわるいせいだろうか?
それとも、じっさい、わざと、サーシャは棘を含ませたのだろうか?
「それ?どういう意味?」
事と次第によっちゃあ赦さない。
ターニャの語気に怒りが見えると
サーシャはいっそう、淋しそうに笑った。



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