検閲をくぐりぬけて、やっと、日本の土をふみしめたのは
もう午後4時をすぎていた。
これは、もうまっすぐ家にかえることにしようと
編集長に電話をいれておいた。
電車にゆられて、駅をでたら
さすがに、暗くなってる。
これは、タクシーで帰るしかないなと乗車場にならぶと
看護師の言葉がよみがえってくる。
ータクシーのドライバーだって、資格がどうのこうのいってたかしらー
そうそう。
その通りだ。
堅苦しい考えより、やらずにおけない。
その気持ちだけなんだ。
テーマがどうの。思い入れがどーの。
そんなものじゃない。
シャッターをおさずにおけない。
その気持ちに従うだけでいいんだ。
やっと、元のチサトにもどってきたと自分でも思う。
元のチサトにもどってきたのはいいけど
タクシーからもみえる、あたしの部屋の明かり。
奴もあいかわらず、元の慎吾でしかないかと苦笑になる。
ドアのノブをまわせば、相変わらずだ。
写真をみせてくれだのどうだのもふっとんでしまう。
玄関の中にはいりこんで、まっさきに文句を言う。
「慎吾、あんた何度言ったら、ドアの鍵、しめてくれるの!!」
あたしの文句なんか、ちっとも耳にはいってないんだろう。
「おう。チサト、お帰り!!」
あんまりうれしそうにいうもんだから、つい、あたしも
「ただいま、帰りました」
って、言ってしまってから気がついた。
待て。ここはあたしん家だぞ。なんで、家主然として
あんたが、おかえりなんだよ。
おまけに・・当たり前のようにはいりこんでるってことに
釈明ひとつないんだから。
どうも、こいつを相手にすると、こっちのペースが乱れる。
常識が常識じゃなくなって
常識ってのを説明しても・・つうじ・・な・・ん?・ん?んん?
慎吾はあたしの荷物をとりあげると先にたって奥にはいっていく。
もう、まったく、マイペースなんだから・・と、
あとから、くっついていくんだから
どっちが家主か・・
「チサト、そこに座って」
な~~んで、あんたに命令されなきゃいけない。と、おもいながら
素直にソファに座るあたしも、どっか、おかしい。
「これ・・」
でっかい、写真。
ポスター版じゃないか。
だけど、中表にして、つまんでるから、中が見えない。
「俺、チサトじゃ撮れない写真とるっていったろ」
そう言ってたな。
「撮ったよ」
ふむ。それを早速ポスター版にしたということは?
「ロゴいれようと思ってさ」
ふむ。
「でもさ、そのロゴ考え付いたら、俺はチサトに撮れない写真は撮れたけど
やっぱ、チサトには、勝てないなって」
はあ?まだ、そんなこといってんだ、こいつ。
「俺、チサトのこと、大好きだ」
はい?え?・・は・・い・・うん
「だから、勝てないのも、うれしい」
何がなんだかわからない。
慎吾はロゴをいいながら、写真をひらいた。
ー彼女は戦場カメラマンだったー
その言葉とともにひらかれた写真には
チサトを・・ちいちゃんを抱いておかあさんにみせている白衣のあたしが映っていた。
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