憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

チサトの恋・24

2022-12-20 12:50:39 | チサトの恋

確かに、あたしには映せない写真ではある。

第一、あたしがあたしを映すことは不可能だ。

だけど、もちろん、そういう意味じゃない。

まず、一番にあげられるのは、

被写体への愛情。

あたしが、いろんなことを知っている当事者だから

バックグラウンドにしきつめられているものが判っているから

そう感じるというわけじゃない。

しいて言えば、あの看護師が最後に写真を撮ってくれたのに似ている。

プロだからアマチュアだからとかいうんじゃなくて

その一瞬をきりとって、もってていてほしい。

と、いう点でいえば、

慎吾が撮った場面こそ、看護師が映したかった写真だろう。

だが、おしむらく、彼女も写真をとってる立場じゃなかった。

次に思うのはロゴ。

彼女は戦場カメラマンだった。

本来、写真をとるのが使命のはずのカメラマンが

「自分も出来る限りの援助をしたいとカメラを置いた」

傍観者であることより

協賛者であることを選んだ。

それは、クライアントの要望をかなえている。

そして、もうひとつ。

それは、慎吾がはなしたこと。

「俺さ・・キャパやユージン・スミスが平気でカメラをかまえられる気持ちがわからなかった。

でもな。おまえの姿をうつしてしまってる俺に気がついたとき

キャパもユージン・スミスも底のところは同じだって思ったんだ。

キャパも兵士を助けたいって思っただろう。かけよって抱き起こして

生きろってさ。

ユージン・スミスもいっしょだとおもう。

がんばれ、がんばって、川をわたって生き抜くんだって

だけど、このひとりを

この一時をすくったって

撃たれる兵士や川を渡らなきゃならない親子はなくならないんだ。

戦争をなくさなきゃ、どうにもなんないんだ。

だから・・」

慎吾の瞳から涙があふれた。

「どんなにか、手をさしのべたいだろうに

その場だけでなく、そんなことが起きてしまう元凶をなくさなきゃいけない。

これ以上、こんなことがくりかえされちゃあいけないんだ。

そのためにも、伝えなきゃいけない。

人々の心をゆりうごかし、世論を動かし

平和をとりもどす。

自分にできる精一杯で、世の中を動かそうとしたんだ。」

あたしは、黙って慎吾の話を聞いていた。

「俺なあ、お前がそういう場面にたったら、お前もそうするんだって思ったよ。

そして、あんな状態で出産なんてことになったら

お前、まよわず、母子をたすけようってしてたよな。

自分にできるかできないかなんて、ちっともかんがえもせずさ・・

自分の精一杯を平気でやっていく姿みててさ。

俺は、これを伝えなきゃいけない。って

例えて言えば、お前が打たれる兵士さ。

俺はそれをつたえなきゃいけないって。

だから、俺はそんな場面にたったら、間違いなくシャッターを押す」

慎吾のなかに、はっきりと指標と使命が根付いていた。

「うん」

答えたけど、あたしはそれしかいえなかった。

「チサト・・ありがとな」

そして、慎吾が伸ばしてきた腕にあたしは

ごく自然に身をあずけることができた。



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