憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

楼上を飛んだ

2022-09-06 07:11:55 | 憂生日記 その1

七日七夜・・終    白蛇抄第4話

の、最後と呼応させている

―伊勢の姫君― 終  白蛇抄第13話

かなえはとんだ。

童子と生きられるならあそこより落ちてかなえは死にます。

天守閣は広げた童子のかいなに飛び込んでゆく踏み台に過ぎなかった。

「童子・・・」

こころ一つを童子に染め替え長きの裏切りをすてさり、かなえはとんだ。

童子・・。

童子・・・・。

童子・・。

かなえのこころは一つに染まっていた。

幸せの頂上は、直ぐそばにあった。

かなえを抱きとめた童子のかいなはかなえの夢だったのか現だったのか。

けれど、確かにかなえは童子だけのものになった。

 

かなえさま。かなえさま。

海老名がかなえを呼ぶ。

振り返ったかなえは向こうを指差した。

「海老名。あの方がかなえの殿御です」

「綺麗な・・・青磁の様な瞳」

「はい。あの瞳の中にかなえをうつしてくれるのですよ」

「おしあわせなのですね?」

「はい。それだけで・・・」

夢の中のかなえは、幸せそうだった。

夢を見させてくれたかなえに、海老名はそううといった。

「かなえ様は光来様だけのものですよ。

海老名とかなえさまだけの真実。誰にも内緒だけど・・」

かなえの菩提に手を合わせ海老名は立ち上がった。

「勢様に琴をおしえてあげませなんだな?

かなえさまは母親失格でございますよ」

海老名に出来る事なら、何でもさせてもらおう。

そして、いつか、かなえさまがどんなにしあわせであったか。

その死は決して逃げではない。

おおきな証である事を勢様に告げえる事が出来る日が来る事を

海老名は祈った。

*********

「童子と生きられるならあそこより落ちてかなえは死にます。」

このセリフは七日七夜の中にある。

そして、3度

かなえは、天守閣から、舞い落ちる。

3度とも、光来童子が受け止め

3度めには 七日七夜を共に過ごす

***********

七日七夜・・終    白蛇抄第4話

の、最後と呼応させている

***********

かなえは窓の外をじっと見た。
屋根の上を飛び歩く童の姿を見た気がしたからである。
『小鬼?』
窓より顔をだして屋根を見やると
その屋根の端に座ってこちらを見ている小鬼の顔を見て
かなえはあっと息を呑んだ。
光来童子そのままの顔立ちである。
年の頃も娘の勢と同じぐらい
「生きて、生きて、おったのですね?」
思わずそう、呼びかけると、
子鬼の方からかなえの側に寄って来た。
薄い萌黄色をした瞳がくるくるとよく動く。
「お前が・・・かなえという女子か?」
「ええ」
「わしが母親じゃと伽羅がいうておったげに、本当か?」
「ええ、ええ、かなえが・・・。
このかなえが母です。
坊は何という名をつけて貰いましたに?
伽羅というはお前を育ておってくれた人かや?
光来の妻かや?
優しい人かや?
仲ようしておるのですな?」
「い・・いんや。わしは父様とはおらん。
伽羅がわしを拾うてくれて、伽羅と一緒におるに・・」
「などか?」
「父さまは主膳にすまぬというて、わしとはおらぬ。
姉様の事とて済まぬのにわしと暮らすはならぬというて」
「ああ・・・知っておいでだったのですね」
「わしは、母様と姉様に逢うてみたいと思うて来たに
わしが来たのは内緒だぞ。父様に叱られるに・・・」
「坊・・なんという名であるな?」
「ぁ、悪童丸じゃ」
「そうかえ。よう、母を恨まずに・・・」
「泣くな。わしは伽羅から色々聞いておるに。
母様が可哀相でならなんだに・・・・」
そこまで言うと、
かなえの何か喋りおるのを聞きつけ、
海老名がやってくる気配を察して
悪童丸は身をおこすと屋根瓦を蹴り上げて
何処かに跳び退った。


かなえは、この時初めて
勢もまた間違いなく童子の子である事を知ったのである。

この後、かなえは小砥ぎの刃物を悪童丸に渡してくれと
勢姫に言い残すと天守閣から身を落とすのである。
童子と生きられぬなら死にます
そう、固く決めた死への旅立ちははかなえにとっての成就である。
その初めの心に、初めのかなえに立ち戻る為に、
―童子と生きられないなら・・・死にますー
その思い一心、その中に立ち帰ると、
かなえは晴れ晴れとした顔で空を仰ぐと
愛しい童子の名を呼んで空へ躍り込んで行った。

****************

かなえ最後の飛翔

光来童子は、迎えに来なかったのか?

かなえは、どうなったのか?

ーかなえの菩提に手を合わせ海老名は立ち上がったー

と、いうことは?

その亡骸を葬っている?

**************

そこをあいまいにしているのが、

ー悪童丸ー   4  白蛇抄第2話

「今日は、帰宅なさるがよい」
「現われぬと言うのか?」
「ええ、忌み日ですから。それに先ほど式神を飛ばしましたが、帰って来ませぬ。逆に、あっさりとくじり殺されたようです。かなり、法術に長けた鬼ゆえ、慌ててこちらが動くのは得策ではありませぬ」
「忌み日?」
「はい。今日はかなえ様の・・・」
主膳の妻。勢姫の母であるかなえの月命日であった。

ー悪童丸ー   7  白蛇抄第2話

「かなえ様、かなえ様。私は貴方様をお守りできず、そして、又、罪深い業を姫に負わせて、あの時私もいっそ、御側に参れば良かった。私が、貴方様を、姫を、悪童丸様を・・・」
「海老名。勢は悪童丸との事はまことと思うておる。故に頼むから、母の事をゆうてくれるな」
「ひいいい・・・」
海老名は押し殺す事もなく声を上げて泣崩れた。
勢姫の母であるかなえは勢が九つの歳に楼上より身を投げた。
それが事故だったのか、本当に身を投げたのか、取り沙汰にされる事はなかった。
余りに深い主膳の悲しみを思い誰もが暗黙の内に口を閉ざした。主膳の寵愛を一身に受けたかなえが自から身を投げる訳など無かったが、余りにも不自然な場所からの転落であった。わざと落ちねば落ち得ぬ場所であった。
かなえが地べたに叩き付けられた事も知らず探し回った者達が楼上の梁に曳き切れた着物の端を見つけて地面に降り立った時には山童に無残に食い荒らされた体の一部しか見当たらなかった。血を帯び引き千切られた着物だけがそれがかなえであることを語っていた。余りに無残な死に様であった。
海老名の言うあの時というのはそのことであった。

**********

血を帯び引き千切られた着物だけがそれがかなえであることを語っていた

**

例えば光来童子が代わりの死体をなげこんだ?

親王の理(七日七夜)が、あるので、

主膳の妻であるかなえをさらうことはできない?

主膳の妻でなくなるー死ーをもって

親王の理が結実するなら、ー死んだー現実と

ー本当は生きているー「IF」とが並ぶかも?

それならば、

光来童子が救い出し、ともに暮らしている??

さらに、かなえと光来童子の因縁を通り越す勢姫と悪童丸。

ここも、天守閣から飛ぶ。

ー悪童丸ー  終  白蛇抄第2話

時守の元に嫁いで二月。勢姫は悪阻を覚えた。時守との睦事はある。
が、こんなに早く悪阻を覚えるわけがない。
「してやったり。悪童丸。悪童丸」
ふた声弟を呼ぶと、勢姫は天守閣から身を乗り出すとそのまま、身を投げた。
「さらばじゃ。海老名」
皐月の空を朧に霞む月を見たいと勢姫にせがまれて、ここまで供をした海老名である。
月に手を延ばすかのように身を迫り出した姫を止める間もなく、宙を舞った姫の身体を何処からか現れた悪童丸が、がしっと、腕の中に抱きとめると二人の姿は何処かに飛び退り消え果てた。
海老名はほうううと溜息をついた。
その顔には安堵の色が浮かんでいる。
姫が心のままに生きることが一番良い事である。
これで勢姫も、かなえが主膳の心に悔いて、身を投げた苦しみを繰り返す事はない。
それにあり得ない事かもしれないが、かなえも、ひょっとすると勢姫のように光来童子を呼んで何処かに飛び退り密かに恋を成就させて暮らしているかもしれない。
僅かに残った肉片がかなえの物であったかどうかさえ定かではなかったのである。
そうに違いない。海老名はそうと決めるとすくっと立ちあがった。
「ひいいいいい。姫様が、姫様が、おちやった。」
打掛を天守閣から投げ落とすと思いきり大声で海老名は叫んだ。
「ひいいいいい・・・・ひいいい、姫がああ・・・・・」
天守閣の下は深い掘りがある。姫の死体が上がらなくても不思議はない。
『存分にかなえの存念はらしたまえ』
そして、海老名の胸の中に巣食う、かなえと光来童子の恋の成就させてやれなかった悔いを、今、勢姫がはらしてくれる。
海老名はもう一度大きな安堵をつくと、姫の幸いを喜ぶ気持ちが顔に出ぬように男達が上がって来るのを待ち受けた。

 

さらにこの

「天守閣から舞い落ちる」は、

次に掲げる「鬼の子」(おんのこ)の最後で使われ

悪童丸では、判然としなかった

「因縁通り越す」が見えてくる。

ネタばらしになるが、ラスト

*********

「澄明。この期に及んで、まだ、ならぬかもしれぬというか?」

嫁ぐ前、勢は三条に何故に嫁がねばならぬと詰め寄った。

なんのため、悪童丸の精をうけた?

このまま、悪童丸を呼んで遁世できようとたずねた。

勢の言葉に澄明は微笑んだ。

嫁ぐしか、因縁を通り越す事はできぬと澄明はいった。

そも因縁を通るとは、親もしくは前世からの引継ぎである。

ただ事を通るだけで、おわらせとうなかりましょう?

かなえさまの思いを、光来童子の思いを二人の身で

実際に味わうことこそが事が通り越す事であり、

因縁納消につながるのです。

それが、光来とかなえにとっての本当のせいじゅでもある。

「かなえの思いをあじわえというのだな?」

「で、なければ同じ事を繰り返すだけです」

因縁通りの形を通ることが違う結末を迎える事に

つながるとは信じ難い事であろう。

「離れ離れになり、

十年先に死であがなうしかない恋でよろしゅうございますか?」

べつに死ぬのはかまわぬが、

かなえが十年先にでも光来とそいとげたかどうかわからない。

これが、今生の別れになり、

悪童丸と再びあうこともかなわぬとなるが、つらい。

「さきゆき、共に暮らせる因縁に変転させるには、通るしかないのです。そして、とおりこすしかないのです。

通り越すと言う事は因縁をしいたそもそもの思いを

自分が通りつくして己の中ですんだことにするしかないのです」

「すんだこと?」

「あたらしい生き様をもとめるには、

この因縁をすんだ事にするしかありません。

そのためには、とおりこすしかないのです」

「・・・・」

「とおりこすとは、同じ因縁の巻き返しから、

因縁の発祥である思いを全て、受け止め攫えてしまうことです」

「そ、それで・・もし、かなえのように

主膳の元に残る思いに差配されたらどうする?」

「とおりこせなかったということでしょう」

あっさりと、いいきると

「明王にまさるば、三条様の元でひととして、いきるもさいわい」

明王の真言に誓いだてた恋さえ吹き飛ばし

自然が三条をおしてくるのなら、勢姫は人として、生きよ。

言い放つ澄明の言葉こそ父光来の思いか?

澄明の言葉を解する思いが沸かされるのを身のうちで

受け止めると勢は言い放った。

「澄明。ならば、わらわは飛んでみしょう」

その時はかなえのように恋に舞うてみせる。

言い放つ勢の言葉を背で受けた事を澄明は思い返している。

―勢がある―

あの勢いで恋を生き抜く。

はらむだろう。

はらむにきまっておる。

はらまずにおくものか。

あの鬼恋しさで何もかもを受け止め

己の生き路をつかみとるはげしさで、

悪童丸との運命を切り開こうとする。

その誠に天が乗る。

自然を、人を生み出した天が乗る。

なるにきまっております。

決まっておる事なぞ口にだすまい。

 

三条の哀れが主膳に重なって見えた。

姫。貴方がそこまで、彼らに愛される方だという事を

しっておいてほしかった。

なぜなら、やはり、主膳と三条の悲しい瞳が浮かぶ。

土に返す身体もない。

幾日も勢の遺体を求め、夕間暮れてきた堀を捜す二人の姿がみえる。

涙を流せば堀の水さえ眼に映らぬ。

浮かばせた船の上から涙を堪え水面を凝らす。

流せぬ涙が一気にあふれ勢の姿をみつけたくはない。

涙が堀の水におちた。

波紋が小さく広がり

見付からぬ勢を思い、肩を落とした

夫と父親の姿が夕闇の中の点景になる。

影を濃くした景色にやっと月がのぼりはじめた。

 

澄明の見る景色は物憂い。

だが、一方で勢姫の嬌声がきこえる。

―澄明。天がわらわに与えた人ぞ―

朧の月に舞った姫はさながら天に帰る天乙女。

その手に帰り来た天乙女を抱きとめるは、

青磁の瞳を持つ紅の髪の異邦人。

去り行く姿を幸いとなす乙女はあられもなく鬼の首に手をまわす。

―澄明。わらわは鬼ぞ―

幸い被る姫のかむりには角こそはえておらぬが、

勢は確かに

おんの子に生まれた事を

楼上を飛んだかなえさながら、

舞いおどってみせた。

喜びという緋扇をはためかせて・・・・。

                          (おしまい)

最後に付け加えておく事にする。

かなえが天守閣をとんで死んだと聞いた是紀はにたりとわろうた。

「やりおったな・・」

かなえのはかりと読んだ。

そして、あの鬼がかなえを死なせるはずが無い。

是紀は信じている。

信じた自分を疑いもせぬ男は更なる勢の死にざまをしらされて、

もっと、わらった。

同じ死にざまにいや、生き様というべきかも知れない。

気がついた事は勢が光来童子の子であったということである。

ましてや、あのかなえの子である。

ならば、鬼を求めるにきまっておる。

勢めも鬼を呼んで、とびすさったな。

かんらからからとわらい、

恋をまっとうする女の血が誰から継がれたかと妻、豊をふりむいた。

ひたむきに是紀を慕う豊の血なのであろう。

一生会うこともなくなった娘と孫であろう。

が、よいわ。わしにはおまえがおる。

かなえも勢もいきておると信じさせるおまえの恋がある。

老妻の手をひきよせ、是紀はわれこそが幸いものだと思った。

*******

おまけ・・・

ー悪童丸ー   6  白蛇抄第2話

澄明が手を握り締めると九字を切った。
「勢姫様と同じかぞえの十九。悪童丸の名は衣居の山に捨つられた時に産着に『この子、悪童なりて捨つるを已む無き』と始まる手紙が馳せられているのから取られた名前」
「鬼が鬼を捨つるか。酷い事を。故に鬼なのかもしれぬか・・」



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