憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

白い朝に・・・7

2022-09-08 19:37:46 | 白い朝に・・・(執筆中)

「おそらく?おそらくとは、どういうことですか?さっき、瞳子は承諾しているといったばかりじゃないですか?教授の言い方を聞いていると、瞳子に、話しているとは、とても思えません。

教授が勝手に決めていらっしゃる。いったい、何があったというのですか?

私がなにか、教授の気に触ることをしましたか?もし、そうなら、それを教えてください。

何もわからないままでは、私も落ち度をなおしようがないでしょう?」

私の瞳から真っ赤な血が噴出しているのではないかと思った。

瞳子をうしないたくない。私に落ち度があるなら、いかにしてでもやり変えてみせる。

私の思いが瞳から噴出していた。

そんな私をみつめていた教授の口から二つの言葉が出た。

「瞳子をそれほど、思ってくれて・・ありがとう。

そして・・すまない・・」

「教授!!」

このままでは、教授の一方的な宣告を受入れたことになる。

「まってください。そんな言葉で私を丸め込まないで下さい。教授がそこまでおっしゃる、そこまで、決心なさっているのなら、きちんとわけを話して、私を納得させてください。一度は親子の縁を結ぶつもりだった人間にそんな言葉一つで私を投げないで下さい」

私の姿勢はいつのまにか、哀願になっていた。

だが、それが、逆に教授にわけをはなさせる決心をさせることに成った。

「君には、すまないと思っている。わけは・・

わけは・・・」

教授の手が再び顔を覆った。

「教えてください。私は命をかけて瞳子を思っています。その思い、吹っ切れというのなら

教授もそれなりに・・」

今度は私が泪に崩れた。

「そうだな。そうだ・・ね。確かに君の言うとおりだよ。

だけどね、私も出来るなら話したくないし、そして、なによりも、君がどんなにか苦しむか・・」

何があったのかいっさい判らない状態で、私が苦しむと言われても、その程度など判るわけが無い。私はただ、婚約破棄に承諾するふりをして、わけをきくしかないとかんがえた。

「逆にいえば、その、わけが判れば、私は婚約破棄を承諾するしかないということですね?」

「そう・・なるし、そうしてもらいたい」

教授は苦しい胸を押さえながら、息を大きく吐いた。

話したくないこと、聞かせたくないことを話すため、教授は息を整えた。

「あの日・・電話があったあの日。家内は・・」

止まった言葉の続きを待つのが、辛いのは、教授の嗚咽が事の大きさを私に教えるからだ。

「君との縁談を白紙にしたくないがため、なにも、私に告げず、精一杯、平気なふりをよそおって、「急用ができたのよ、今日は義治さん、お断りしてね」と、いったんだと思う。

私は、母の健康がすぐれないから、そのことで、急変があったのかもしれないと思って、急いで、家に帰った。

そこで待っていたものは・・」

教授の喉がぐっとつまり、声がかすれ、指先が細かく震えていた。

悲しみとは少し質の違う・・やるせない怒りがこみあげてくるようにも見えた。

「瞳子が・・」

教授はその続きを喉の奥から一気に押し出した。

「暴行・・された」

「え?」

私の中に沸いた感情は両極端なものといってよいかもしれない。

そんなことぐらい・・で。

そんなことぐらいで、瞳子をなくしたくない。

そして、もう一方で、瞳子の傷心を思った。

そんなことぐらい。とは、とても、いえない悲しみにくれている。

そして、私に対してのすまなさからだろう。潔癖感もあるだろう。

瞳子は私に顔向けできないと、考えたのかもしれない。

「教授、こんな言い方はもうしわけないですが、そんなことぐらい、なんですか?

それよりも、瞳子はそんな状態で、宮城に・・・」

私を頼るまもなしに、自分の悲しみにくれるいとまもとろうとせず、瞳子は気丈にふるまい、

祖母の容態を気遣ったのだろう。

ところが・・・。

教授は首を振った。

「母の病気は・・嘘だよ。欠勤のための方便だ。瞳子は宮城には行ってないし、母も元気だし・・・瞳子のことは、君もそういってくれるだろうと私も当てにしていたよ。

そうでなくともね、私もずるいかもしれないけど、娘の幸せをいのったら、瞳子には、君にはなにも告げるなというだろう。そんな一度のアクシデントで人生を棒にふるようなことはしないでくれと、ちょっとした怪我でしかないって、そういうよ・・・」

私の頭の中は混乱し、整理がつかない状態になっていた。

「ちょ、ちょっと、待ってください。瞳子は・・宮城にいってないのなら・・今、どこに居るのですか?いや・・そうじゃない。教授?

なぜ?「そう、言うよって・・」?、それ、言ってないということになりませんか?

あ、いや、それより・・、何故、教授が嘘をついて、仕事をやすまなきゃ?」

今まで、母親の容態のせいだと思っていた欠勤も教授の沈痛な面持ちも、教授の滂沱の泪も、いっさい、母親に関係が無いという事に成る。

教授のうしろに隠された事実は、なにか、とてつもなく、恐ろしい・・・。

その予感だけで、私に細かな、身震いが起きていた。

「瞳子は・・今、どうしているのですか?どこにいるのですか?」

なぜ、教授は瞳子を私にあわそうとしなかった?



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