憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

踊り娘・・・8

2022-12-21 14:18:21 | 踊り娘

気が付かないまま、むきになるターニャが妙に純粋にみえて、彼女は口調を和らげた。
「あたしは・・はじめから、アフターにはいったの。実入りがいいからね。
あたしは、17の時に子供をうんで、
どうしようもなくなって、母親に預けたの。
子供の父親とは、籍もいれないまま、
子供も認知されないまま・・・。
母親に子供を預け、養育費を送るためにね。
パトロン・・はね・・・。
この仕事はいつまでもつづけていけないでしょ?
そのための保険。
子供もこれから、お金が要るし、
女手ひとつの稼ぎで十分な教育をうけさせてやりたいと思ったら・・・
あたしには、このアフターの収入とパトロンの存在は必要なのよ」
あるいは・・・。
目的を持って流されず、しっかりと自分の意志でアフターをはる場合もあるんだよと
彼女はいいたかったのかもしれない。
「もうしわけないけどね・・・・
貴方から、アフターに入るだけの覚悟が読み取れないんだよね」
「あ・・あたしは・・・ただ・・踊っていたくて・・・」
それがターニャの本音。
「だけど、あなた・・・。
客の好奇な目につぶされそうだよ。
アフターに来る客の多くはただのすけべ。
愛人契約を結べる女の子を物色しにきてるだけ」
「そ・・そんなことない・・」
「踊りを純粋に楽しみたい人間は
アフター以前の時刻にいるか、
国立劇場にいってるよ」
「そ、そんなことないわ。
アフターの中からだって、プロになれる素質をもってるこがいるか、どうか、
そんな風に見てくれる人だっている・・」
ターニャの言葉は間違いではない。
いや、もっと肯定的にいえば
正解であり、真実である。
但し、以下の条件下において・・・・。
「そうね。
確かに、年齢的に「若ければ・・・」
道を間違えたマドンナをアフターから救いだして、プロを目指させてやりたいと思うでしょう。
だけど、あなた、いくつ?
才能もないのに、若さと美貌とスタイルのよさでソロマドンナの地位にたっていたけど、
あなたは、もうソロをはれるだけの若さでなくなって、
アフターに来て
それでも、まだ、踊りを評価される?
踊りを見たいなら
もうとっくにプロになれてるんじゃない?
ソロでも、目が出なかった人間の踊りをアフターにもってきて、
まともな評価を得たい?
貴女・・・自分でおかしいと思わない?
でも・・・」
彼女はターニャを見つめなおした。
「こんなこと、わたしがいわなくても、
これからの舞台・・・
観客が眼に物みせてくれる・・よ」

カルメンをアレンジしたバックミュージックが、流れるとそれが、ターニャの演目。
イワノフのせめてもの、配慮なのか、
それとも、
もともと、こういう衣装なのか。
真紅のバラを思わせる襞の濃いケープをまとい
5フレーズめまで、タップを踏んで
観客の拍手を求める拍手を自らうって、
ドラムがはいり、
情熱のカルメンは舞台で、
両手を天に翳す。
求めるものは灼熱の恋。
天に向かって祈りもとめるだけの女じゃないのが、カルメン。
己の手で恋を手繰り寄せるため
魅惑の身体を捧げる。
ドラムがとまり、フラッシュバックがはじまると、ターニャはケープを投げ捨てる。
あらわになった乳房をここぞと誇るが如く
胸を張り
紅いスカートをたくしあげ、
フラメンコ。
高く掲げた手は髪元におかれ、
下に曲げた手はスカートを掴み、振る。
一点のくすみのない情熱のため、
カルメンの胸はぴいんと、はりつめた背筋にささえられる。

だけど・・・・。

この胸をこの両手で覆い隠してしまいたい。

暗転からフラッシュバックした舞台に
立ち尽くす裸身のターニャに
観客席からどよめきが起きた。

だれもが、昨日まで、ソロをはっていた、美貌のプリマドンナの胸を
その目でみたいとチケットを買い求めた。

好奇と興味と卑猥・・・。
舌なめずりがきこえそうな欲情・・・。

踊りとは、程遠い見世物。

観客と目が合えば、

独特の秋波に包まれる。

ターニャをその手に抱いた夢想に酔うのか、
胸だけで、飽き足らず興味の触手は
ターニャの下半身にのび、
夢想を実現させる手段があると、
観客の触手は胸のポケットの中の金をまさぐる。
ターニャに触れることができるパトロンに
なれるチャンスはあるいは、皆に平等で
望さえすれば、夢が叶うかもしれない。

そんな観客にとって
ターニャは・・・

『私は見世物じゃない。
それよりも、もっと、酷い。
そう・・・・。
商品。
それも、陳列台に自ら乗った・・
馬鹿な商品』

己を売り物にしているだけにすぎないと、
気がついた時は、
もう、遅すぎた。



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