憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

―鬼の子(おんのこ)― 5 白蛇抄第14話

2022-09-06 07:08:32 | ―おんの子(鬼の子)―  白蛇抄第14話

「おまえ?おんのこじゃな?」

障子が開け放たれ、顔を出した勢が

逃げようともしない悪童丸をみつけると、

いきなり掛けた言葉がそれだった。

「お・・おまえ。わしがこわうないのか?」

悪童丸の問いに勢の方が考え直していた様である。

「ほんに、いわれれば、こわうない」

鬼を見て、怖くないと言うのも妙なものである。

「可笑しなおなごじゃの」

いうてはみたものの、悪童丸には勢の血が

恐れを覚えさせないように思えた。

「こわうない。それに・・お前はひどくうつくしい」

「え?」

悪童丸も勢も知る由はないが、

このくだりは光来童子とかなえの出会いの再現をみるようである。

「そんな瓦のうえにおらぬでよいから、勢のそばにこや」

「よ、よいのか?」

「鬼なぞ見るのははじめてじゃ。

もそっと、側によってよう、かおをみせてくれや」

『そう・・いうものなのか?』

好奇心旺盛というのだろうか?

勢の部屋に入り込むと、勢のほうからにじりよってきて、

まじまじと悪童丸を覗き込んだ。

「青磁のようなひとみじゃの?鬼はみなそうなのかや?」

「いや・・そうではない」

「其の・・角に触れたらいかぬかや?」

「べ、べつにかまわぬが」

後に続く言葉がなんであるかなぞに戸惑っている姫ではなかった。

悪童丸が微かに頭を垂れると、勢のてがのびてきた。

「硬いものじゃな?だんだん大きくなるものかや?」

「う・・ん」

「ふううん」

これが姉なのである。

無論、弟とは勢は知るわけも無いが、

なぜか千年の知己のような心安さを感じていた。

「おまえはどこにおるのじゃ?」

何故今まで鬼がおるのもしらずにいたのか?

それは、どこか遠い所からながれてきたせいなのだろうか?

「衣居山におるに」

「ええ?」

存外近い所にいたという。

「ずううと、おったのかや?」

「そうじゃ。産土様で拾われてから・・ずううと、」

「拾われた?すつられたかや?鬼も子をすつるかや?」

「う。ああ」

「気の毒であったんじゃなあ」

面白い娘であると思った。

可哀想という上段から見た物言いはしなかった。

悪童丸の身の上を知ると、

こちらが切ないという《気の毒》という言葉を選んだ。

それがかなえから伝わる情の持ち方なのかもしれない。

「優しい女子じゃの」

今度は勢の方が悪童丸の言葉に

「え?」

と、いった。

「どうした?」

「優しいなぞといわれたことがないに。

いつも、おとなしくしてなさい。

おなごらしくなさいと」

「母様にしかられるかや?」

しかってくれてもよいではないか。

自分にはそばにいない存在なのである。

「いんやあ。海老名じゃ・・」

「海老名?」

「乳母やじゃ」

「ふうううん」

この海老名こそが悪童丸の風前のともし火のような命を

救ったのであるが、かなえの産婆を買って出たのが

海老名しかないという事を子供心に考え付くことではない。

「うるさいのだな?」

「うん」

やけにしっかりと勢は頷いた。

「そうか」

「なに?」

「うん。ならば、わしが来たのは」

「いえぬ。いえぬ。いいはせぬ」

「そうか。あ・・・。誰にも言うなよ。

誰に言うてもわしはもうこれぬようになる」

「鬼じゃからか?なれど。また、きてくれるということであるな?」

いつのまにか、またくる約束と心積もりが出来ていた。

さらに、かなえにもあってみたいのである。

それが叶わぬうちは、

一人暮らしの居所をどこにするかをきめかねてもいる。

まだ、さきのことではあるが、

今の悪童丸はこの地を後にするために、

心残りを一つづつつぶして行くだけのつもりであった。



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