子どもが抱く疑問や問題は、明確に区別していないように思われる。低学年生や3年生などによく見られる、単純な「なぜ?」「どうして?」「不思議?」というような質問に「疑問」を使い、複雑な解決を要するものを「問題」といっていることが多い。
子どもが解決したいものや解決してやらねばならないもの、「なぜ?」「どうして?」などと思うものなどを、疑問や問題の区別をしないで「学習問題・学習課題・テーマ・今日のふしぎ・めあて」などとネーミングして使っていることが多い。
1、 問題は共通経験の蓄積で生まれてくる
子どもを自然の事物、現象に直接に触れさせて、子どもの本来持っている自然への関心を呼び覚まし、いろいろな問題を持つように体験や経験の場を十分に確保することが、子どもが喜び理解できる授業になる。
「風とゴムのはたらきをしらべよう」の事例を上げて考察する。
第1次「風のはたらき」を学習したのち、第2次「ゴムのはたらき」の第1時間目。輪ゴムの伸び縮みを手触りで体験した後、「ゴムを5cmと15cm引っ張ったときの車の進む距離を比べよう」と学習問題を先生が設け、予想をさせ実験させる授業を参観した。 ゴムで車を動かした体験のない子どもたちに予想をさせても、満足がいく予想内容にはならなかったし、確かめの実験に取り掛かっても、最初は車をスムーズに動かせていなかった。 |
この原因を探り、改善点を探ってみる。
この授業は、前時までに風のはたらきについては学んでいる。ゴムで車を動かす活動は扱っていないので、「輪ゴムの手ごたえを今確認しましたが、この輪ゴムを使って車を動かすことは出来るでしょうか?出来ると思う子いますかー」と質問すると、数人の子が即座に挙手すると思われる。「こうやると動かせるよー」と身振りを交えながら自慢げに説明するだろう。「皆さんもそう考えますか」と突っ込みを入れると、「できるー」と言う合唱が返ってくることは想定できる。 ここで「ゴムを使って車を全員が動かす」体験をさせることが共通経験蓄積になる。この場を作ることによって、ゴムでも車を動かすことが出来ることを実感する。さらに強く引っ張ると遠くまで進むことに気付く子も現れるだろう。 この活動を3分間ほどさせてから集合させる。「どうでしたか」と質問をすると、「動くー。強く引くと遠くまで行くよー」などと気付いたことを我先にと発表しようとするのは3年生の子どもたちである。 この活動の蓄積が、「風のはたらきの時、風が強い時は遠くに進みましたが、ゴムでも引っ張る長さによって進む距離が違うのかな。予想をノートに書いてごらん」と発問しても、子どもたちはどの子も予想を考えられると踏める。 数名の子に発表させたのち、「それではゴムの引っ張る長さを5cmと15cmにして調べてみよう」と展開することによって、事例の実践よりも主体的な取組みになることと思われる。 |
2、見なれた現象には、かえって問題を持ちにくい
問題を持つということは、何らかの意味において、子どもの心の平衡が破れた時である。
事物や現象に直接接した時、「不思議」「驚き」「疑問」・・・等々、違いを感じ安定感を打ち砕かれたとき、子どもは問題を抱くようになる。
見なれた事物や現象は当たり前と捉えて問題をもちにくい。こうした事物や現象にも「おや?」と思うような心をゆり動かす働き掛けの工夫を、教師は準備しておく必要があるし、仕掛けを考えておくことである。
3年「磁石の学習」の事例を紹介する。
導入で、磁石に付きそうな物と付きそうでない物を用意して事象提示を行う。その中の「クレヨン」が磁石に付くことに「驚きの声が」上がる。クレヨンのなかでも鉄が含まれている茶色とこげ茶色がつくのである(磁石はネオジム磁石を使用のこと)。 クレヨンが磁石に付いたことから、子どもの内心に「意外性」が燃え上がり、疑問から調べてみようと行動に移る。 |
3、問題は明瞭な疑問の形式に言い表すことが必要である
「植物の育ち方について調べよう」「振り子のきまりについて調べよう」では、問題は明らかにはならない。「種子が発芽するためには、何が必要なのだろうか?条件を考えながら発芽に必要な環境条件を調べよう」「糸につるした錘の動きには、どのようなきまりがあるのだろうか?錘の動きを観察しよう」など、そこにはっきりとした学習の対象となる問題が具体的になっていることである。
問題が生まれるためには、次のことを意識しておきたい。
○問題の生まれる場面を分析的にみること。 ○分ることと分らないことをはっきり区別すること。 ○分らないことは疑問の形に表現してみること。など |
加えて、子どもが抱いたり発見したりした疑問や問題を授業で取り扱う「授業化・学習化」を繰り返すことによって、疑問を見つけようとする子どもたちが多く表れ、習慣化していく。
そのためには、「この次は○○君の疑問をみんなで取り組んで解決していこう」の指示をすることによって、子どもが気付いた面白い疑問や問題を授業の俎上に載せることになる。この裏技(隠し味)は、子どもの「疑問を発見する目」を鍛えることになる。