<2012年3月9日に書いた以下の記事を復刻します>
先日、DVDを借りてきて見たが、戦前(1939年・昭和14年)の映画『上海陸戦隊』というもので、若い頃の原節子が出ているというからレンタルしてきた。
ところが、見てがっかり! 原節子がシナ(今の中国)の少女を演じていて、端役だからほとんど出てこないのだ。DVDのケースの表紙に騙された感じだ。(表紙には原節子の名前や写真が載っていた。)
役柄も日本に激しい敵意を持っている“汚らしい少女”で、やたらに唾を吐いたりする。見ていて嫌になった。完全に“汚れ役”なのだ。原節子はその頃(19歳)、すでに新進女優として売り出していたのに、どうしてこんな役をするのかと疑問に思った。そこで、調べたら何となく分かった。
彼女の義兄(次姉の夫)である熊谷久虎監督が、この映画のメガフォンを取っていたのだ。原節子は貧しい家庭で育ったので、熊谷監督が映画界に誘ったという。だから、義兄の言うことには従わざるを得なかったのではないか。
また、この映画は日本海軍後援の「上海事変」を扱った国威発揚のものだから、どんな役でもやらざるを得なかったのか。「陸戦隊」というのは海軍のもので、今で言えば「海兵隊」みたいなものである。それにしても、こんな汚れ役の原節子は見たことがない。
前置きが長くなったが、原節子ほど人気のある日本女優はいなかったのではないか。10年前(2000年)、20世紀の最後だというので『キネマ旬報』が「20世紀の映画スター」を選んでもらったら、日本では彼女が堂々の第1位に輝いた。これは当然だと思う。
年配の方ならおおよそ分かっていると思うが、これほど美しく気品のある女優はほとんどいなかったのではないか。私は日本の3大美人女優(3大スター)の1人だと思っている。あとの2人については言わない。それは各人によって好みが違うから、ここで論議するのは止めよう(笑)。ただし、原節子が3大スターの1人であることは間違いないと思う。
私は昔から、原節子は欧米で言えばイングリッド・バーグマンのような“存在”だと思っていた。バーグマンも美しく気品があり、2人の活躍時期はほぼ同じなのだ。ちなみに、バーグマンの方が5歳年上である。
ところが、一般には原節子は、バーグマンの先輩で同じスウェーデン人のグレタ・ガルボに例えられる。伝説的な大スターであったグレタ・ガルボは“美のスフィンクス”と呼ばれたが、わずか36歳で引退。同様に原節子も42歳で引退したのだ。2人はその後、公けの場にいっさい姿を現わさず、ひっそりと隠棲生活を続けた。引き際の見事さがよく似ているのだろう。
原節子は日本人離れした容貌をしていたと思う。顔の輪郭、目鼻立ちがはっきりしていて、まるで外国人のようである。何か“大輪のバラ”を見ているようだ。特に眼の輝きが印象的で、子供の頃から「千里眼」「5センチ眼」などと綽名を付けられた。5センチ眼とは、目頭から目尻まで5センチあるという意味だ。
それほど容貌が鮮やかなのだが、不思議なことに極めて日本的なオーラ(雰囲気)を醸し出す。そこが私には“謎”である。何故だろう。性格なのか、演技力なのか・・・
伝説の大女優・原節子は、今もひっそりと鎌倉に隠棲を続けられているそうだ。御年91歳。その27年にわたる映画人生は、日本人には決して忘れられないだろう。
今日は“汚れ役”の原節子を見てがっかりしたが、書く切っ掛けになったから良かったかもしれない。 (2012年3月9日)
注・・・原節子さんは2015年9月5日に他界した。享年95歳