ブラジルのバイーヤ沿岸で暮らす黒人漁師たち。
その祖先はアフリカから奴隷として連れて来られ、子孫たちは今も黒人密教を崇拝、悲劇的かつ運命論的な神秘主義に囚われ、
神の国を待つ人々特有の従順さで貧困、文盲、搾取などを受け入れている。
イエマンジャーは海の女神でイレースの母、漁師たちを守り、時には罰を下す海の支配者。
“バラベント”とは大地と海が一変し、愛や生活や社会が変貌する激しい瞬間のこと。
と、タイトルの後に字幕が出る。
村の男は都会に出ても仕事はなく、できることは魚を捕ることだけである。
その地引き網漁は網元の親方に支配されていて、村人は食べていけるのがやっとの状態である。
警察に追われ破壊活動分子と思われているフィルミノが都会から村にやって来る。
以前、村人から彼はのけ者にされたが、今は恨んではいなく、反対に彼らを憐れな連中と思っている。
そして、村を親方の支配から解放しようと考える。
フィルミノは、親方が都会から連れてきて育てた青年アルーアンを、親方の言いなりで服従するだけだと感じている。
彼は祈祷師の所へ行き、アルーアンと網に呪文を唱えてくれるよう依頼する。
親方一味は漁の配分が不満ならと網を撤収する。
それを受けてアルーアンは、危険ないかだで魚を捕ろうと海の中を進める。
呪文は失敗し、アルーアンが無事海から帰ってくる。
フィルミノは、アルーアンが女神に護られて神様扱いになるのを恐れて企む。
そして、海が荒れるのはアルーアンが霊を怒らせたからだと煽動する。
二人は対決し、フィルミノは、最後にアルーアンに見逃してやるから同胞を救えと言い、
そこにいる皆にアルーアンに従えと言う。
漁師は網で魚を捕るのが正道だと、アルーアンは都会で働いて網を買って皆の暮らしを変えようと決心する。
因習、民間信仰が深く絡まって、それに合わせての太鼓と合唱などの土着音楽。
物語の筋は、恋愛も絡まっていても多少の単純さが物足りないが、それをはねのける程の得も言われぬ独特のモノクロが、
圧倒的な力強さで画面いっぱいに醸し出されて満足十分の作品であった。