ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

清水宏・7~『風の中の子供』

2020年11月07日 | 日本映画
『風の中の子供』(清水宏監督、1937年)を観た。

小学校5年生の善太と1年生の三平兄弟は、夏休みを迎えて大はしゃぎだった。
ところが2年生の金太郎が、三平の父親が会社をクビになり警察に連れて行かれるとよからぬことをいい出した。
不安な三平は、兄の善太や母親にことの真相を問うがはっきりしない。
父は会社を辞め、私文書偽造の嫌疑をかけられてどこかに連れていかれてしまった。
三平の不安はつのった。

やがて三平はおじさんの家にあずけられ、ホームシックにかかって、いたずらばかりをしておばさんを困らせた。
柿の木に登ったり、タライに乗って流されたり、母や兄の住む町へ行くという曲芸団の一行にもぐりこんだりする三平にほとほと手をやいたおばさんは、
三平を母のもとへ追い返した。
親子三人でなんとか生きて行こうと奮闘する母の気持ちなど知らない三平は、相変わらずいたずらばかりして・・・
(「映畫読本 清水宏」より)

兄の善太は学校の成績も良く親の言うことにも素直、それに引き換え弟の三平は、勉強は好きでなくやんちゃで小さい子たちを引き連れたガキ大将的タイプ。
そんな小学生の兄弟に父親の仕事関係の事情が被さってくる。
それが父親のいない生活苦と変化し、やんちゃな三平に対しても否応なく影響してくる。
そんな状況を三平を中心として描いていく。

あまり勉強をしない三平は、父親の昼弁当を会社に届けに行くお手伝いを、母が兄の善太ばかりにさせてやらせて貰えない。
やっと念願の弁当運びをさせて貰えた三平が会社で見たのは、他の者たちから糾弾されて意気消沈している父親の姿。
三平は、窓の外で好奇心で覗いている子供たちから、見えないようにブラインドを閉める。
子供の世界では知らない大人の世界を垣間見た三平の行動。

父親がいなくなった生活のために、町医者の叔父の家に引き取られる三平。
随分と離れた所で寂しさいっぱいの三平だが、そこはやはり子供、やることが天真爛漫で叔父叔母をハラハラさせる。
傑作なのは、ほかの子たちが、三平がタライに乗っていて流されたと叔父に知らせた後の場面。
叔父は馬で川に流される三平に追いつき、着の身着のまま助ける。
三平は助かるがタライは流されていく。
三平のひと言、「僕泳げるから、あれ取ってこようか」。
客観的にみればこの川の深さは大したことでないことがわかったりする。
それを子供の視点から見た軽さが、ユーモアも絡んで微笑ましい。

そして叔父の家から帰された三平は、母と共に医院での住み込みの仕事に赴くが、こんな小さな子では仕事にならないと断られる。
帰り、途方に暮れた母は「三ちゃん、お母さんが死んだらどうする」と言い、それを聞く三平は「僕、叔父さんの所へもう一度行き、イタズラももうしないよ」と約束する。
幼い子が大人の世界を意識し、今までの遊びの世界から目覚めようとする。
この子に、早急に現実の世界をまだ教え込まなくてもと、心が痛む。

作品の出来を丁寧にみれば、大人の世界の掘り下げがなく子供世界との対比が弱いかもしれない。
しかし、子供の日常の生き方はこのようであったと想わせる描き方は、その素朴さと相まってなぜか郷愁に近い懐かしさを覚える。
そしてラストではホッとさせられる、そんな貴重さの清水宏の代表作といわれる作品であった。
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