

令和元年度日本東洋医学会兵庫県部会が神戸大学で開催された。天候に恵まれ意義深い症例報告や特別講演を拝聴した帰路、楠木正成公を主祭神に祀る明治五年(1872年)創建の湊川神社を参拝した。湊川は大楠公が御一族とともに殉節を遂げられた地である。

櫻井驛 楠君決別の圖│尾形月耕 日本花圖繪 明治廿六年
過桜井駅址 頼山陽
山碕西去桜井駅 山碕より西に去れば 桜井の駅
伝是楠公訣子処 伝うらくは是れ 楠公 子に訣れし処と
林際東指金剛山 林際 東に指せば 金剛山
堤樹依稀河内路 堤樹 依稀たり 河内の路
想見警報交奔馳 想見す 警報 交ごも奔馳し
促駆嬴羊餧獰虎 嬴羊(るいよう)を促駆して 獰虎に餧(えば)す
問耕拒奴織拒婢 耕を問うに 奴を拒み 織に婢を拒む
国論顚倒君不悟 国論 顛倒して 君 悟らず
駅門立馬臨路岐 駅門 馬を立てて 路岐に臨み
遺訓丁寧垂髻児 遺訓 丁寧なり 垂髻(すいちよう)の児
従騎粛聴皆含涙 従騎 粛として聴き 皆 涙を含み
児伏不去叱起之 児は伏して去らず 叱して之を起たしむ
西望武庫賊氛悪 西のかた武庫を望めば 賊氛(ぞくふん)悪しく
回頭幾度覩去旗 回頭 幾度か 去旗を覩(み)る
既殲全躬支傾覆 既に全躬を殲(つく)して 傾覆を支え
為君更貽一塊肉 君が為に 更に貽(のこ)す 一塊の肉
剪屠空復膏賊鋒 剪屠(せんと) 空しく復た賊鋒に膏(あぶら)するは
頗似祁山与綿竹 頗(すこぶ)る似たり 祁山(きざん)と綿竹とに
脈脈熱血灑国難 脈脈たる熱血 国難に灑(そそ)ぐ
大澱東西野草緑 大澱(おおよど)の東西 野草緑なり
雄志難継空逝水 雄志 継ぎ難く 空しく逝水(せいすい)
大鬼小鬼相望哭 大鬼 小鬼 相い望みて哭す
(入谷仙介校注:江戸詩人選集 第八巻「頼山陽 梁川星厳」, p105-111, 岩波書店, 1990)