その頃は道路(国道)が子供の遊び場でもあった。子供がいっぱい居た。わが家は5人、裏に住んでいた母の姉の一家も5人、隣りの母の弟の一家が3人、向かいの家では子供の名前もごっちゃになるほど沢山いた。どの家にも飼い犬がいて、当時は放し飼いだったから、タローもジローもチョンもチビも、子供も犬も区別なく混じって遊んでいた。
瓦けりや縄跳び、地雷や水雷、ビー玉やケンケンパー、竹のバットとずいきのボールで野球など、誰かが始めるとすぐに、男女の区別もなく集まった。
珍しくある日、女のいとこと二人きりになったことがある。いつものような何気ない会話が途切れてしまい、話の続け方がわからなくなったことがある。
普段は大勢で居ることばかりだったので、慣れ親しんだ日常から、未知の場所に迷い込んだような戸惑い。とっさに言葉が見つからず、そこから逃げ出すこともできない焦り。そんな微妙な年頃だったのだろう。
慣れない沈黙に耐えられなくなって、私はいきなり彼女のスカートの中に手を入れた。言葉が出てくる前に手が動いていたのだ。指先に柔らかい芝生のようなものを感じて、私の手は止まった。
「だめよ、それはイガグリよ」
彼女の声は平静を装っているように聞こえた。ふたりの間に、異常なことは何も起きてはいないという、落ちついた口調だった。とつぜん好奇心だらけの、いたずら小僧に変身した私の方が戸惑ってしまった。
「触ったら痛いわよ」
私は思わず手を引っ込めてしまった。その時、たしかに指先に痛みを感じたのだった。
あの痛みは何だったのだろう、と思い返すことがある。栗の実が熟す頃のことだっただろうか。栗のイガの痛さがどんなものであるか、それは、少年のイガグリ頭に触れるどころの痛さではない。それだけは知っていた。
「2024 風のファミリー」