“――さぁ、マコトを応援する曲です。みんなも、応援してあげてね”
エスはマコトの声が聞こえなかったのか、返事をすることなく、聞き覚えはないが、どうにも元気になれるような曲を流し始めた。
「ちぇ。都合が悪くなったら知らんぷりかよ」と、マコトは憎々しげに言った。
ポケットにラジオを戻したマコトは、砂漠の彼方に目を向け、なるべく日陰を選びながら歩き続けた。
短い一歩は、しかし振り返れば無数の足跡を砂漠の砂に残していた。方角がわからなくなれば、ラジオのエスに話しかければ、放送の合間に答えが返ってきた。
「これだけ広い砂漠で、あいつがいる場所になんて、本当にたどり着けるのかよ」と、歩き続けで、息の上がっているマコトは言った。
“――遠くにある物は目の前に。目の前にあるはずの物は遙か遠くに、でしょ”と、ポケットのラジオから、エスが謎かけのように言うのが聞こえた。
「はいはい。言われなくたってわかってるさ」と、マコトは舌打ちをしながら言った。「だけどな、分かってるってことと、それを実行するってこととは、まったく別もんだろうが」
マコトは言うと、立ち止まって辺りを見回した。
耳を澄ましても、風に舞い散る砂のさらさらとした音しか聞こえず、丘のように波を打って聳える砂漠が、絵に描いたようにどこまでも続いているばかりだった。
「いい加減、喉が渇いたぜ――」
マコトがぽつりと言ったのは、そのひと言だけだった。
砂の音も、砂の丘も、柔らかく吹いてくる風も、どこもなんにも変わっていないようだった。しかし、
――ブーン、ブーンン。
と、マコトが立っている砂丘の反対側から、奇妙な機械音が聞こえてきた。
「本物か――」と、マコトは言いながら、砂を蹴立てて急いで砂丘の裏側に回った。
「なんとなく、この世界の仕組みを思い出してきたぜ」と、言ったマコトの目の前に、赤い自動販売機がポツンと立っていた。
「いらっしゃいませ――。いらっしゃいませ――」
「どこから電気を引っ張ってきているかは知らないが、よく冷えていそうじゃないか」と、マコトは自動販売機の前に立つと、ろくに選ぶこともせず、並んでいるスイッチを押した。