目的地を目の当たりにしていても、砂漠の砂は前に進もうとする足にまとわりつき、気持ちを後戻りさせようとした。
ここまで走ってこられた体力が、嘘のようにずんずんとすり減っていくのがわかった。何度膝に手をついても、ため息を漏らしても、心臓が止まりそうなほど激しい息をついても、巨木は青い空に大きく枝葉を伸ばしたまま、近づいてこようともしなかった。
まるで、遙か遠くの山を手に取るような近さに見ていながら、実際は近づけないほど距離が離れているのと同じだった。
後ろから追いかけて来る青騎士も、例外ではなかった。砂の上を滑るように走る馬を失った青騎士は、マコトが取り上げようとしても動かせなかった大剣を軽々と手にしつつも、重い鎧を纏った足はマコト以上に深々と砂に取られ、マコトとの距離を離されたまま、こちらも追いつけずにいた。
「――まて、おまえはオレだ」
と、格子の面繋を下ろした兜の奥から、マコトとそっくり同じ声が言った。
「ちぇっ。オレはオレだけだ――」と、マコトは振り返らず、ただ大きな声で叫んだ。「影になんか知り合いはいない。さっさと消え失せろ」
「それは、オレのセリフだ。憎らしい幻め……」
マコトはびくりとして、急に頭を下げた。と、それまでマコトの首があった所を、目にも捉えられないほどの早さで、大剣の切っ先が水平に宙を薙いでいった。
「――おまえ、いつのまに」と、砂の上で仰向けになっているマコトは言った。
「おまえはここで終わりだ」と、砂に手こずっていた青騎士とは明らかに違う、力強さに満ちあふれた青騎士が言った。
マコトは砂を巻き上げながら斜面を転がり、青騎士の大剣が次々に繰り出されるのをかろうじて避けていた。
よく見ると、青騎士の鎧が、ときおり赤い色を浮かび上がらせていた。
「――」と、マコトの脳裏によぎったのは、サオリを追ってきたまだらな色の青騎士だった。
「――聞いてるか、エス。緊急のリクエストだ。リリの新曲を頼む」
と、立ちあがったマコトの手には、ラジオが握られていた。
砂の混じった風に遮られ、エスがなにを言っていたのかは聞こえなかったが、耳にするいろいろな音が、楽譜をたどって規則的な旋律を奏でているような、そんな錯覚を起こすほど、心を奪われる歌が聞こえてきた。
歌が聞こえ始めると、マコトを追う青騎士の足が、ぴたりと止まった。
ラジオを手にしたまま、耳を塞いでいたマコトは、歯を食いしばって青騎士に近づくと、後ろから兜に抱きつき、頭からすっぽりと兜を脱がせてしまった。