「――おまえ、なにをする」
と、船の行方は、甲板から飛び降りるジローをつかまえようとしたが、伸ばした手はむなしく宙をつかんだだけだった。
スピアを追ってきたサメが、大口を開けて海上に姿を現した。力強く波を掻くスピアだったが、比べることもできないほど大きなサメの前では、力のない小魚にしかすぎなかった。
誰もが息を飲んだが、スピアが海に描く細い白波の下から、ジローが飛び上がり、スピアにかじりつこうとした大きな顎を両手で押さえつけた。
サメは口を開けたまま、ジローと共に大きな波しぶきを起こし、海に倒れこんだ。
スピアと青い光は、その隙を突き、人々に救い上げられた。
「あいつ、どうなっちまったんだ……」
と、甲板から身を乗り出して見ていた船の行方の隣に、いつの間に下に降りて来たのか、船長も固唾を飲んで見守っていた。
ドドン――……。
と、文字どおり海底火山が噴火したような水しぶきを上げ、サメとジローが海上に踊り出した。
ジローは、青い光がサメの背中に突き刺した銛を手にしていた。突き刺さった銛を、更に深く突き刺して、致命傷を与えるつもりだった。
それを察知したサメは、高く飛び上がっては、わざと激しく海面を叩くように倒れこみ、爆音にも煮た波しぶきを上げていた。
ジローとサメの戦いを見守っている大海原の民には見えなかったが、銛を手にして立っているジローの目の前に、形をなした青騎士の魂が姿を現していた。
「おまえは、おれじゃない」と、青騎士は言った。「おれが、おまえになるんだ」
亡霊のようにジローの周りを漂い絡みつく青騎士は、呪文にも似た言葉を繰り返していた。被っている兜は半分が崩れ、ジローとそっくりな顔が、奥から覗いていた。
青騎士は、銛を手にして離せないジローをあざ笑うように、現実ではない幻の大剣を手に、ジローの足と言わず腕といわず、突き刺してはまた引き抜き、ジローの手を銛から離させようとしていた。
「手を離せ。手を離せば、楽になるぞ」と、宙を漂う青騎士は、ジローの耳元に囁いた。「だけど離せば、船の連中は皆、食い散らかされるぞ」