イルカと共に海に出る仕事は難しく、体力も必要とするため、年齢制限が設けられていた。多くの群れを形成している鯨を放牧するには、人の力だけではなく、人とパートナーとなったイルカの力も不可欠だった。彼らと信頼関係を築くことで、鯨達を海で迷わせることなく、的確な海に誘導することができた。
イルカに乗れないジローは、海に乗り出す役職から遠い昔に引退した老人達と共に、海に出て行った者達が集めてくる情報を、伝令として船長に伝える仕事をこなしていた。
船長は航海士達と一緒に大きな海図を広げ、海から入る情報を図上にしるし、鯨達を誘導する方向を決めていた。
老人が言っていたとおり、ここは本当にドリーブランドではないのだろうか――。
知らない土地に来たせいか、グレイ達と共に旅をしていた時にも増して、一日がやけに長く感じられた。
扉を抜ける前、持たせてくれたラジオは、海中に飛び出たことで水没してしまい、まったく動かなかった。
仕事の合間を見てケースを開けると、中にある風車が、すっかり海水を吸いこみ、風を受けても回らなくなっていた。
甲板の、潮風を受けない日陰に置いて乾かしてみたが、風車は乾燥しても、塩が固まって浮き出してしまい、船室の自分のベッドに戻ってから、風車を傷つけないようにこそげ落とさなければならなかった。
顔の半分をひげで覆った船長は、「そんな物、音など聞こえるわけがない」と言って、ラジオの機能についても、はなっから信じられない、と疑っていた。
風車に張りついた塩を根気よくこそげ落とし、勢いよく回り始めた風車を確認すると、ジローはラジオのケースを閉じ、チャンネルを探って銀河放送局を探した。
“はぁい。みんな元気だった? これからは、めずらしい海の国からのメッセージです。
鯨達の歌が聞こえる海に来て、七日が経ちました。けれど、探している扉も、扉を作った魔女も、見つからないままです。
ですって。扉は、すぐそばにあるように思えても、たどり着くのはなかなか大変なんだね。そんなあなたにぴったりな曲です。どうぞ――”
ラジオから放送は聞こえたが、探している扉の情報は、得られなかった。
「まだそんなおもちゃをいじってたのか」と、ジローのそばを通りかかった船長が、あきれたように言った。「休みは自分のために使ってもいいが、仕事で根を上げられちゃ困るからな。少しでも横になって、体力を回復しておけよ」
「――船長、聞いてください。ほら……」と、ジローはラジオを手にすると、船長の顔の前に突き出した。「直りましたよ。声が聞こえるでしょ」
「――」と、船長は難しい顔で耳を澄ましていたが、ため息をついてジローに言った。「おまえが言うとおり、なにかは聞こえるが、これは貝殻と同じで、潮の音じゃないのか」
と、船長はつまらなさそうに踵を返し、甲板の奥へ歩いて行って、見えなくなった。