兜の下から現れたのは、マコトにそっくりな、マコトの影だった。
「どうだ、自分を目の当たりにした気分は」と、マコトの影はにやりと冷たい笑みを浮かべた。
「どうもこうもあるかよ。オレ達は一人だ」と言ったマコトは、青騎士から奪った兜をすっぽりと被った。
兜を被ったマコトは、嘘のように体が軽くなり、どこからか力がみなぎってくるのを感じていた。
「消えろ、オレの影」と、マコトは腕を伸ばし、青騎士が持つ大剣を奪おうとした。しかし、伸ばしたはずの右腕の肘から先が、なくなっていた。
兜を被ったマコトは、言葉にならない声を漏らした。
大剣を構えた青騎士は、混乱しているマコトに向かって、勢いよく大剣を振りおろした。しかし、消えてしまったと思ったマコトの右腕は、一瞬の後、しっかりとまた現れていた。我に返ったマコトは素早く一歩を踏み出すと、青騎士の一撃をするりとかわして体を寄せ、まんまと青騎士から大剣を奪うと、取りかえそうとする青騎士の胸を大剣の切っ先で貫いた。
「くっ――」
と、青騎士の鎧を纏ったマコトの影は声を漏らすと、くやしそうに宙をつかみながら、さらさらと崩れる黄色い砂になって、砂漠に散らばっていった。
恨めしそうな表情を浮かべた青騎士が姿を消すと、マコトが手にしていた大剣も、青騎士と同じく黄色い砂に姿を変え、消え去ってしまった。
「真人が好きなゲームなら、ラストダンジョンクリアーってとこなんだろうな」と、マコトは自分のことを他人事のように言うと、被っていた兜を脱いで放り投げ、いたずらっぽい笑顔を浮かべた。
青騎士を倒すと、あれほど遠かった巨木は、一歩を踏み出す度にぐんぐんと近づいてきた。これまでの苦しさはなんだったのか、マコトはいともあっけなく、砂漠の樹王の大きな樹冠の下にたどり着いた。
心地のいい清々とした風が、吹いていた。
軽くなった足取りで、マコトはごつごつとした巨木の幹の前にやって来た。
「久しぶりだな、大木さん」
と、マコトは言うと、幹の周りを回り始めた。
「ホッホッホッ……元気そうな声が聞こえるぞ……」と、マコトの言葉に答えるように、野太い声が聞こえた。
マコトが壁のように続く太い幹の周りを回っていると、木の幹がブルブルと震え、吸いこまれそうなほど大きな二つの目が、パッチリと見開かれた。
「ふざけたことを――」と、マコトはつまらなさそうに言った。「ここまで来るのに、何度も砂に変わりそうだったんだぜ」