8 王様の城
目の前でマコトが消え去ってしまった後、詰め所にいた誰もが声も出さず、ただじっと立ちつくしていた。
「これは――」
と、ジローは言った。
「死の砂漠に落ちてしまったのでしょう」と、又三郎は言うと、信じられないというように首を振った。「どうしてなんだ……」
「わかりません」と、城の兵士は言った。「急に、頭が痛いと苦しみ始めたんです。青騎士に切られたということは、けっしてありません」
「――どう、なっちゃうの」と、グレイは言った。「もう、戻ってこないの」
「――」と、又三郎は顔を上げると、グレイを見て言った。「私も、死の砂漠から戻ってきた経験があります。けっして、戻ってこられないという事はありません。ただ……」
と、みんなの視線が、又三郎に集まった。
「ただ、本人次第です」と、又三郎は言った。「死の砂漠の試練に打ち勝つことができれば、必ず、こちらに戻ってくるはずです」
「真人は、言っていたよね」と、グレイはジローに言った。「必ず戻ってくる。追いかけて来るな、って」
「あれは、そのことを言っていたのか?」と、ジローはグレイに言うと、又三郎を見た。「まさか、この世界に来たことがあったんだろうか」
「くわしくは聞けませんでしたが、はっきりとした言葉で言っていたのは、確かです」と、又三郎は言った。
「ここで一泊する予定でしたが、状況が変わってしまいました。これからすぐに城に向かおうと思います」
と、又三郎は言った。
「夜になってしまいましたが、死の砂漠に落ちてしまった者が出た以上、もたもたしていることはできません」
「おれ達なら大丈夫だ。沙織も負ぶっていけばいい」と、ジローは言った。「なにが起こっているかわからないんだ。城に行くのが最善なら、一刻も早く行こうじゃないか」
と、グレイも、じっと聞いていたアオも、人間のようにうなずいた。
――――
宿屋にもらった松明を灯しながら、ジロー達は城を目指した。
希望の町を出ると、町に来た時とは反対の方角に向かって進んで行った。鬱蒼とした森が、どこか心細げな足取りの一行を、すぐに複雑に絡む樹冠の下にすっぽりと覆ってしまった。