「――おお、又三郎よ。無事に戻ったか」
と、城の扉が開き、パフル大臣が急いで駆けつけてきた。
「彼らが、迷い人です」と、又三郎は帰りの挨拶もそこそこに、大臣にジロー達を指し示して言った。
「よくいらっしゃった。私は、ねむり王様にお使いしているパフル大臣という者だ」と、大臣はジロー達を見ながら言った。「こんな夜更けまで歩き続けて、さぞかし疲れきっておるだろう。くわしい話しは明日するとして、今日はもう、部屋でゆっくり休むがいい」
パフル大臣は言うと、そばにいた兵士の一人に、ジロー達を客間に案内するように言いつけた。
「では客人殿。私に着いて来てください」と、パフル大臣に深々と頭を下げた兵士が、ジロー達に言った。「さぁ、こちらへ――」
ジロー達は、中央に噴水がある大きな広場を抜け、真っ直ぐに進んだ小高い階段の先にある、城の入口に向かって行った。
城の中は、外観から見える以上に、天井が高く感じられた。ジローの背中に背負われ、ぐっすりと眠っているサオリ以外は、アオも含め、城のぐるりを見回さずにはいられなかった。
「――でかいなぁ」
と、つぶやいたはずのジローの声が、広い城の中に恥ずかしいほど大きく響き渡った。
「しっ――」と、グレイは唇に指を当て、ジローの背中で眠っているサオリを指差した。
ジローは、グレイを見るとしまったというように肩をすぼめ、サオリが目を覚まさなかったか、確かめるまで慎重に歩いていった。
先を進んでいく兵士は、入り組んだ道にも迷うことなく、慣れた足取りで城の中を進んでいった。注意して道を覚えなければ、迷子になってしまいそうだった。
「こちらです」
と言って、兵士が足を止めた。
ジロー達が案内されたのは、中央に伸びる広い通路を挟んで、等間隔に整然とベッドが並べられた大きな部屋だった。パフル大臣は客間と言っていたが、見る限り、大勢が利用できる避難所のようだった。
「うわー。立派なベッドがある」と、グレイは嬉しそうに言って、ジローの顔を見た。「思ってた以上に、立派な部屋だね」
しかしジローは、客間とは名ばかりな印象を感じて、グレイの言葉に首を傾げていた。
「――そうなのか」と、ジローは困ったように言った。「おれ達の人数じゃ、とうてい使い切れないほどベッドがあるぞ」
中央の通路に立って確かめるように部屋を見たグレイは、やはりジローの思いとは違い、あらためて「素晴らしい部屋だよ」と、胸を躍らせていた。