くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(90)

2023-12-10 00:00:00 | 「王様の扉」


「――おお、又三郎よ。無事に戻ったか」

 と、城の扉が開き、パフル大臣が急いで駆けつけてきた。
「彼らが、迷い人です」と、又三郎は帰りの挨拶もそこそこに、大臣にジロー達を指し示して言った。
「よくいらっしゃった。私は、ねむり王様にお使いしているパフル大臣という者だ」と、大臣はジロー達を見ながら言った。「こんな夜更けまで歩き続けて、さぞかし疲れきっておるだろう。くわしい話しは明日するとして、今日はもう、部屋でゆっくり休むがいい」
 パフル大臣は言うと、そばにいた兵士の一人に、ジロー達を客間に案内するように言いつけた。
「では客人殿。私に着いて来てください」と、パフル大臣に深々と頭を下げた兵士が、ジロー達に言った。「さぁ、こちらへ――」
 ジロー達は、中央に噴水がある大きな広場を抜け、真っ直ぐに進んだ小高い階段の先にある、城の入口に向かって行った。
 城の中は、外観から見える以上に、天井が高く感じられた。ジローの背中に背負われ、ぐっすりと眠っているサオリ以外は、アオも含め、城のぐるりを見回さずにはいられなかった。

「――でかいなぁ」

 と、つぶやいたはずのジローの声が、広い城の中に恥ずかしいほど大きく響き渡った。
「しっ――」と、グレイは唇に指を当て、ジローの背中で眠っているサオリを指差した。
 ジローは、グレイを見るとしまったというように肩をすぼめ、サオリが目を覚まさなかったか、確かめるまで慎重に歩いていった。
 先を進んでいく兵士は、入り組んだ道にも迷うことなく、慣れた足取りで城の中を進んでいった。注意して道を覚えなければ、迷子になってしまいそうだった。

「こちらです」

 と言って、兵士が足を止めた。
 ジロー達が案内されたのは、中央に伸びる広い通路を挟んで、等間隔に整然とベッドが並べられた大きな部屋だった。パフル大臣は客間と言っていたが、見る限り、大勢が利用できる避難所のようだった。
「うわー。立派なベッドがある」と、グレイは嬉しそうに言って、ジローの顔を見た。「思ってた以上に、立派な部屋だね」
 しかしジローは、客間とは名ばかりな印象を感じて、グレイの言葉に首を傾げていた。
「――そうなのか」と、ジローは困ったように言った。「おれ達の人数じゃ、とうてい使い切れないほどベッドがあるぞ」
 中央の通路に立って確かめるように部屋を見たグレイは、やはりジローの思いとは違い、あらためて「素晴らしい部屋だよ」と、胸を躍らせていた。

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王様の扉(89)

2023-12-10 00:00:00 | 「王様の扉」

 青騎士におびえていたサオリは、ジローに背負われるとようやく落ち着きを取り戻し、いくらも経たないうちに心地よい寝息を立て始めた。
 深い森の中を、夜目にもはっきりそれとわかる道が、地面の起伏に沿ってうねうねと延びていた。ねむり王の城は、町を出ればすぐだと言われていたが、道の先に見えるのは松明の光が届かない闇ばかりで、近くに城があるとはとても思えなかった。
「お城って、ここから近いの――」と、グレイは小声で言った。
「はい。日中であればよく見えたんですが、ねむり王様のお城は、澄んだ湖のほとりに建つ、青い屋根をした白くて美しいお城です」と、又三郎が言うと、お城の兵士も大きくうなずいた。
 本当に、王様の城に向かっているんだろうか――。と、どこまでも続くような暗い夜道を進みながら、誰もが城からの使者が言う言葉に、わずかな疑いを抱かずにはいられなかった。
「――」と、ジローもグレイも、足取りが重かった。グレイの肩に止まったまま薄らと目を閉じているアオも、どこか気を張っているように見えた。
 延々と続く山道を歩き続ける覚悟を決めた頃、清々とした風が通り過ぎていった。沈んでいた空気が、一変して活気を取り戻した。

「もう少しですよ」

 と、又三郎は松明を高く掲げて言った。
 松明の明かりは、パチパチと火の粉をはぜらせながら、暗く静かに広がる湖を照らしていた。
「――白い、お城だ」と、グレイは思わず上ずった声で言った。
「立派な城だな」と、ジローも感嘆の声を上げた。
 さらに進んでいくと、ねむり王の城を取り囲む、見上げるほど高い城壁が現れた。
 巨人が顔を出しそうなほど大きな門の前まで来ると、又三郎は門の横に設えられた出入り口の扉を叩いて言った。

「又三郎です。異人の迷い人を連れて、ただいま戻りました」

 又三郎が言い終わると、錠を外す音が聞こえ、出入り口の扉が中から開いた。
「よお、どうしたってんだ、一体」と、扉を開けた小人のガッチは、驚いたように言った。「てっきり、帰りは明日だと思ってたぜ」
「希望の町で、青騎士に襲われてしまいました」と、又三郎は言った。「どうも、我々が考えているより、難しい状況になっているようです」
「マジリックは?」と、ガッチは言った。
「残念ですが、なにも情報はありませんでした――」と、又三郎は小さく首を振った。
「しかたなしか」と、ガッチもため息をついて言った。「それにしても、魔法使いなんだから、さっさと自分から帰ってきてもいいだろうに」
 と、ジロー達は出入り口をくぐると、目の前にそびえ立つ城を興味深げに見上げた。

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