「馬車を借りていたら、たどり着けなかったかもしれないな」と、ジローは考えるように言った。
「――なんとも答えに窮しますが、これほど奥まった所だとは、思いもしませんでした」と、又三郎はがっかりしたように言った。
「ラジオで確認してみようか」と、マコトは手をポケットに入れると、ラジオを取り出してスイッチを入れた。
“みんな、元気だった?“
と、ラジオからエスの声が聞こえた。
“メッセージが届きました。扉の魔女を探しているんだね……。『この先に、魔女はいるのかな』だって。大丈夫。この先の家に、探している魔女は住んでいるよ”
と、聞き慣れない曲が流れ、マコトはラジオのスイッチをオフにした。
「間違いなく、この山を越えれば、扉の魔女が住んでいる家があるらしいな」と、マコトはラジオをポケットにしまいながら言った。
「キキッ――」と、みんなを引っ張って飛ぶアオの翼にも、力が入った。
「――どうやら、あそこみたいですね」
と、又三郎は言ったが、険しい渓谷の中にポツンと建つ、大きな三角屋根の家は、見間違える者などいるはずもなかった。
切り立った山々に囲まれ、深い渓谷に建つ一軒家は、濃い緑色の草むらの中、ゴツゴツとした大きな岩を土台にして建てられていた。
ドスン、ドドススン――……。
と、魔女の家を見上げる広い草むらの中に、アオは引っ張っていたみんなを着地させた。
ごろごろと、あちらこちらに転がりながら、みんなはやっとのことで立ちあがると、もこもこの服は破裂するように消え去った。
「びっくりした」と、グレイは小さく飛び上がって言った。「着地したとたんに消えるなんて、思いもしなかったよ」
「――そのとおりだな」と、ジローはサオリの手を取って、立ちあがらせながら言った。「体ごと消えるかと思って、ヒヤリとしたぞ」
「おいおい、そこは文句じゃなくて、お礼を言うところだろ」と、尻もちをついて立ちあがったマコトは、服についた土ぼこりを払い落としながら言った。「こんな人を寄せつけない辺境に、難なく来られたんだ。感謝してもらいたいぜ」
「キキッ――」と、アオが鳴くと、グレイは笑いながら言った。
「連れてきたのは、ぼくだぞ。だって」
「――そうでしたね。アオ殿」と、又三郎は「ありがとうございます」と言って、頭を下げた。