グレイの背中にさっと隠れたサオリは、横目でこわごわジローの様子をうかがっていた。
「ああ。扉の向こう側は、どこか別の場所と繋がってるみたいだ」と、扉を閉めながら、ジローは言った。「どこなのかはわからないが、こことはまったく違う場所が広がっていた」
と、又三郎とグレイは、慎重にしながらも、目についた扉を次々に開けて、扉の向こう側はどうなっているのか、確かめていった。
「ジローの言うとおりだ」と、マコトは言った。「おそらくこの扉のひとつひとつが、どこか別の場所に繋がっているんだ」
「魔女がどうしてこんな辺鄙な場所に住んでいられるのか、わかったような気がします」と、又三郎は言った。「行きたい場所があれば、自分で作った扉で、どこにでも行けるんでしょう」
「――だな」
と、マコトが扉のひとつに手を伸ばすと、いきなり向こうから扉が開き、中から誰かが飛び出してきた。
隣の部屋に逃げようとした影は、すれ違ったジローに、やすやすと捕まえられてしまった。
「きみ、ここの家の子かい――」と、グレイは言った。
「――ぼくは、ポットです」
と、ジローに抱えられた子供のような影は、逃げるのをあきらめたように、ばたつかせていた足を止めて言った。
「アレッタ殿は、どちらに行かれたのでしょう」と、又三郎は言った。
「――」と、ポットはぎゅっと唇を噛んで、なにも答えなかった。
「申し遅れましたが、私達はねむり王様の所から使わされた者です」と、又三郎は言った。「怪しい者ではありません。知っていらっしゃるのなら、扉の魔女殿がどちらに行かれたか、教えて頂けないでしょうか」
ポットは、ジローに抱えられたまま目を白黒させていたが、又三郎を見てぽつりと言った。
「ほんと? ――ねむり王様の所から、来たの」
「はい」と、又三郎は言った。「はじめてお目にかかると思いますが、私は猫の又三郎と言います。王様のお城で、警護の仕事を主に働いています」
「扉の魔女様は、旅行に出かけられています」と、ポットは、緊張した表情で言った。
「どこに行ったか、知ってるのか」
と、マコトの言い方が恐かったのか、ジローに手を離してもらったポットは、テーブルの下に素早く潜ると、震える声で言った。