くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(118)

2023-12-24 00:00:00 | 「王様の扉」

 グレイの背中にさっと隠れたサオリは、横目でこわごわジローの様子をうかがっていた。
「ああ。扉の向こう側は、どこか別の場所と繋がってるみたいだ」と、扉を閉めながら、ジローは言った。「どこなのかはわからないが、こことはまったく違う場所が広がっていた」
 と、又三郎とグレイは、慎重にしながらも、目についた扉を次々に開けて、扉の向こう側はどうなっているのか、確かめていった。
「ジローの言うとおりだ」と、マコトは言った。「おそらくこの扉のひとつひとつが、どこか別の場所に繋がっているんだ」
「魔女がどうしてこんな辺鄙な場所に住んでいられるのか、わかったような気がします」と、又三郎は言った。「行きたい場所があれば、自分で作った扉で、どこにでも行けるんでしょう」

「――だな」

 と、マコトが扉のひとつに手を伸ばすと、いきなり向こうから扉が開き、中から誰かが飛び出してきた。
 隣の部屋に逃げようとした影は、すれ違ったジローに、やすやすと捕まえられてしまった。

「きみ、ここの家の子かい――」と、グレイは言った。

「――ぼくは、ポットです」

 と、ジローに抱えられた子供のような影は、逃げるのをあきらめたように、ばたつかせていた足を止めて言った。
「アレッタ殿は、どちらに行かれたのでしょう」と、又三郎は言った。
「――」と、ポットはぎゅっと唇を噛んで、なにも答えなかった。
「申し遅れましたが、私達はねむり王様の所から使わされた者です」と、又三郎は言った。「怪しい者ではありません。知っていらっしゃるのなら、扉の魔女殿がどちらに行かれたか、教えて頂けないでしょうか」
 ポットは、ジローに抱えられたまま目を白黒させていたが、又三郎を見てぽつりと言った。
「ほんと? ――ねむり王様の所から、来たの」
「はい」と、又三郎は言った。「はじめてお目にかかると思いますが、私は猫の又三郎と言います。王様のお城で、警護の仕事を主に働いています」
「扉の魔女様は、旅行に出かけられています」と、ポットは、緊張した表情で言った。

「どこに行ったか、知ってるのか」

 と、マコトの言い方が恐かったのか、ジローに手を離してもらったポットは、テーブルの下に素早く潜ると、震える声で言った。

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王様の扉(117)

2023-12-24 00:00:00 | 「王様の扉」

「扉の魔女は、いませんか」と、マコトに続き、みんなはそれぞれ声を出しながら、部屋の奥へと進んでいった。

「アレッタ殿。ねむり王様の城から来た物です。お願いしたいことがあって来ました。アレッタ殿」 と、又三郎は言った。

「――アレッタって、もしかすると扉の魔女の名前か」と、ジローは又三郎に言った。
「はい。扉の魔女は、アレッタというお名前です」と、又三郎が言うと、グレイ達も足を止めて耳を傾けた。「お城では、扉の魔女のことは、ほとんど誰も知りませんでした。しかし調べていくと、古い記録に、アレッタという名前があったのです。扉の魔女とばかり呼んでいたので、いつのまにか名前を忘れてしまっていたようです」
「まぁ、魔女ってやつは、自分の正体を隠そうとするもんだからな」と、言いながら、マコトは隣の部屋に繋がるドアを開けた。

「――どうなってんだ、こいつは」

 と、マコトはドアノブを持ったまま、立ち止まって言った。
 後ろから来たみんなが部屋の中をのぞくと、やはりどきりとして足を止め、互いの顔を見合わせた。
「これって、全部、扉。だよね」と、グレイは目を凝らしながら言った。
「気味が悪いな……」と、マコトは静かに言った。「扉の魔女に会ったことはないが、できればこのまま、回れ右して帰りたいね」
「間違いありません。大きさも形もまちまちですが、壊れた王様の扉と、模様がそっくりです」と、又三郎は言うと、振り返ったみんなの顔をそれぞれ見ながら、小さくうなずいた。「ここで、間違いなさそうです」
 部屋の中には、装飾なのか、実際に使っているのか、天井と言わず壁と言わず、そこかしこに大小様々な扉が設えられていた。外の雄大な景色が見える窓のほか、家具といえば、二人が向かいあわせになると、肘がぶつかってしまいそうなテーブルと、飾りっ気のない椅子が置かれているだけだった。
「――見て、テーブルの上にも、盾みたいに小さな扉があるよ」と、グレイが身を乗り出して言った。
「こりゃ、やっかいだなぁ」と、大きくドアを開けたマコトは、部屋の中を見回すように進んでいった。

 ――ガチャリ……。

 と、ドアを開ける音がして、みんなはサッと振り返った。
 見ると、壁に作られたドアの1つを、ジローが開けていた。
「おい、ジロー。むやみに開け放って、なにかまずい物が飛び出してきたら、取り返しがつかないぞ。気をつけてくれよ」と、マコトは言った。「その奥には、なにがあるんだ」

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