「魔女がどの扉を開けたか見当がつくなら、黙っているより、手分けして探しに行こう」と、ジローは言った。
「青騎士が襲ってくるかもしれないから、何人かはここに留まっていなきゃならないね」と、グレイは言った。
「扉の向こうから戻って来たら、この家が無くなってたってのは、ごめんだぞ」と、ジローは降参するように、小さく手を上げて言った。
「オレとジローとグレイで、手分けをして探そう」と、マコトは言った。「ネコさんとアオとサオリは、ポットと一緒に扉の魔女の帰りを待っていてくれ」
「私よりも、マコト殿の方がいいのでは――」と、又三郎は言った。「なにか非常事態があっても、私ではみなさんと連絡する手段はありません」
「大丈夫だよ」と、マコトは言うと、ポケットからひとつ、またひとつ、もうひとつとラジオを取り出した。「銀河放送局の放送が聴けるラジオだ。これさえあれば、宇宙の果てにいても、放送を通じて連絡が取れるだろ」
又三郎とグレイとジローも、マコトが作り出したラジオを手に取った。
「で、ジローが扉の向こうを見たとおり、どこに繋がっているか、見当もつかない」と、マコトは言った。「もしもこの世界ではない世界に飛び出してしまうと、自分達の存在が消えてしまう危険もある。だから――」
と、マコトは片手の指をパチンと鳴らし、目に見えないほど細い糸を取り出した。
「この糸の一方の端をこちら側に。もう一方の端を自分達に結びつけていれば、自分達の存在が消えることはない。扉を見失っても、この糸をたどっていけば、扉に戻ることができる」
「わかった」と、グレイ達はうなずいた。
「じゃあ、最後はっと――」
と、マコトは床にしゃがむと、足元に指先でなにかを書き始めた。
「今度は、どうするの?」と、グレイはマコトの手元を覗きこんだ。
「魔女の行く先を、手っ取り早く床に聞こうと思ってね……」と、マコトは言って立ちあがると、床が薄ぼんやりと輝き、沸きあがった煙のようなぼんやりが、人のような輪郭を次々に浮かび上がらせた。
「――これは、誰だ」と、ジローは人の形をしたぼんやりを見て言った。
「この影は、床が覚えている魔女の行動だよ」と、マコトは言った。「どこまで遡れるかはわからないが、魔女の動いた足跡を立体にして見えるようにしたんだ」
「あっちにも、こっちにも、色違いの魔女様がいる」と、ポットは目を丸くして言った。
「大丈夫だ。さわっても怪我なんかしやしないよ」と、マコトは扉の魔女の影にこわごわ手を伸ばしたサオリに言った。「――見てみろ。この色の濃い影が、最近の足跡だ。頻繁に扉の向こう側と行き来しているのがわかるが、色の濃い影をたどっていけば、扉が絞られてくるはずだ」