11 大海原の民
――バタン。
と、ドアが閉まると、ジローは急に息苦しくなり、光の見える上に向かって、海中を泳いでいった。
「プーッハ」
と、大きく波のうねる海上に浮かび上がると、ジローは潮の匂いのする空気を胸一杯に吸いこんだ。
ここは、どこなんだ――と、ジローは波に揺られながら、辺りを見回した。
どこまでも広く青い空と、大きく波を打つ海以外、見える物はなにもなかった。
扉の魔女がやって来た様子など、微塵も感じられなかった。扉を閉めたとたん、海中に出るなどとは、思いもしていなかった。
ジローは、再び海に潜ると、やって来た扉を探した。
しかし、自分がいたはずの場所を探しても、扉はどこにも見つからなかった。
薄暗い海中の中、手探りで扉の向こう側に結わえてきた糸を探した。扉の魔女がいないとわかった以上、ここにいる必要はなかった。
ジローは、手探りで見つけた糸をたぐっていった。糸は、なぜか海上に向かって延びていた。
どうして、糸が海上に向かって延びているのか――。ジローには見当もつかなかった。
「プーッハ」
と、ジローは再び、海上に浮かび上がった。
相変わらず、青い空はどこまでも広く、大きく波を打つ海は、水平線の彼方まで延々と続いていた。
たぐっていた糸は、海上に出るとピンと張り詰め、ジローを引っ張っていこうとするようだった。
ジローは目を細め、見えないほど細い糸が向かっている方向を確かめると、波を縫うようにして、悠々と泳ぎだした。
すると、ジローと並ぶようにして、一頭のイルカのような海獣が、海上に背中を見せるようになった。
つかず離れず、互いの距離を保ちながら、海獣はジローの後を着いて来ているようだった。
見知らぬ海獣の追跡に気がついたジローは、海中に潜って姿を確かめると、追いかけて来るのは、やはりイルカのようだった。襲いかかってくる様子がないことから、ジローは特に気にすることなく、そのまま併走を続けていた。
しかし、なにを思ったのか、イルカが急にジローに近づいてきた。