くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(104)

2023-12-17 00:00:00 | 「王様の扉」

「今、言ったばかりだろ」と、マコトは言った。「おまえ達の記憶に鍵をかけさせてもらったんだよ」
「ぼく達の記憶を奪うなんて……」と、グレイは厳しい目でマコトを見た。「そんなこと、許さないからな」
 ――と、異変に気がついた又三郎は、マコト達の方を振り返った。城の兵士達も、武器に手を掛けたまま、どうしたものか、ザワザワと戸惑っていた。

「やめさせなければ」

 と、又三郎が駆け出そうとすると、機械陀がそっと肩に手を乗せ、足を止めさせた。
「――」と、又三郎は機械陀を振り返った。
「考えがあってのことと思います」と、機械陀は言って、小さく首を振った。
「――させないぞ」と、グレイはマコトを捕まえようとした。
 目で捉えられないほど早く動いたグレイだったが、光る環を再び手にしたマコトは、少しもあわてることなく、向かってくるグレイを待ち受けていた。
 グレイは、額がぶつかりそうなほどマコトのそばに近寄った所から、ふわりと飛び上がって体を翻し、マコトの後ろに回りこんだ。
 予想もできない動きに表情を曇らせたマコトだったが、グレイにまんまと捕まって抱え上げられたとたん、握っていた手の平を開き、電球のような物をピカリと瞬かせた。

「わっ――」
 
 と、まぶしい光に目を眩ませたグレイは、捕まえたマコトを放し、両腕で顔を覆った。
「三丁上がり」と、マコトは言うと、にやりと笑みを浮かべた。
「なにを言って――」と、顔を上げたグレイの手首にも、光る環が掛かっていた。
「それは、なんですか?」と、様子をうかがっていた又三郎が、駆けつけてきて言った。
「これは、記憶を思い出せないように、鍵をかけてしまう道具さ」と、マコトは言った。「力づくになってしまったが、こうでもしなけりゃ、誰もせっかくの記憶に蓋をさせちゃくれないだろ」
「どこから持ってきた道具ですか?」と、又三郎は言うと、マコトはただ「ふふん」と、自慢げに胸を張って見せた。
「なんでこんなことをする」と、ジロー達は一箇所に集まって言った。
「ひどいじゃないか」
「キキッ――」と、ジローの肩に止まったアオは、いまにもマコトに打ちかかりそうな、激しい口調だった。
「いいさ。好きなだけ悪態をつけばいい」と、マコトは舌打ちをして言った。「オレがおまえ達にしてやれるのは、ここまでだ。青騎士は、必ずまたやって来る。その時は、自分を追ってきた青騎士と戦わなければならなくなる。その戦いに勝利しなければ、本当の自分は取り戻せない。失敗すれば、そこには死の砂漠が待っているだけだ」

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王様の扉(103)

2023-12-17 00:00:00 | 「王様の扉」

「ああ。肉体がないから、五感に影響されないで、互いの思いをより強く感じ取れるんだ」と、マコトは言った。「だが、それにも限界はある。疑問や恐れを抱くことだ。記憶を取り戻して、自分の置かれた現実を思い出してしまえば、自分達がいるこの場所が信じられなくなって、死の砂漠に落ちる可能性がめちゃくちゃ高くなる」
「よくわかんないけど。自分のことを思い出せなきゃ、元の場所には帰れないんじゃないの」と、グレイは心配そうに言った。
「――それだよ」と、マコトは言った。「死の砂漠に落ちる前に、忘れた自分を取り戻さなきゃならない。そしてなおかつ、自分自身を越えなければ、遅かれ早かれ、おまえらは死の砂漠に落ちてしまうんだ」
 ジローとグレイが怪訝な顔をして聞いていると、グレイの頭の上に止まっていたアオが気配を察し、不意に飛び上がった。
 一瞬の後、グレイとジローを狙って、光る環を手にしたマコトが、二人に襲いかかった。

「なにをする」
「どうしたの」

 と、あわてた二人は後ろに飛び退いたが、攻撃の手を止めないマコトに向かって、素早く木刀を抜いたアオが、対抗する一刀を振るった。

 カキンッ――……

 と、アオの木刀と金属のぶつかり合う音が聞こえた。
 成り行きを見守っていた城の兵士達も、空気を一変させた緊迫感に反応し、収めた武器に手を掛け、思わず身構えてしまうほどだった。
「はい。一丁あがり」と、宙に羽ばたいたまま、木刀を構えているアオを見上げながら、マコトは言った。その手に持っていたはずの光る環が、どこかに消えていた。
「アオになにをした」と、ジローはマコトに言った。
「鍵をかけさせてもらったよ」と、言ったマコトが見上げていたアオは、翼の間に木刀を隠すと、城壁の上に止まり、しきりに足元を気にしていた。
「――おまえっ」と、ジローは両手を伸ばし、マコトを捕まえようとした。
 しかし、ひらりとジローをかわしたマコトは、どこから取り出したのか、一度は消えてしまった光る環を片手に持ち、振り向きざまジローに投げつけた。
 飛んでくる環を手で払い落とそうとしたジローだったが、腕に光る環が触れたとたん、環はするりとジローの腕を透り抜け、そのままブレスレットのように縮まって、すっぽりと手首に掛かってしまった。
「はい。二丁上がり」と、マコトは言った。
「これは、なんだ」と、手首に掛かった光る環を見ながら、ジローは言った。「なにかの仕掛けか。それとも、呪いかなにかか」
「大丈夫?」と、グレイはジローに駆け寄ると、手首に掛かる環を心配そうにのぞきこんだ。

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