と、ジローのそばまでやって来た船の先には、最初に呼びかけてきた女性のほかに、数人の人達が集まってきていた。
波に揺られながら船を見上げていると、舳先にいる誰かが、ジローにロープを投げた。
目の前に落ちたロープを拾うと、船の人々が声を合わせ、小島のような大きな船にジローを引っ張り上げた。
「ありがとう。助かったよ」と、全身から海水をしたたらせたジローは、人々にお礼を言った。
「あんた、どっから来たんだ」と、前歯のひとつ欠けた老人が、ジローの顔を覗きこむように言った。「イルカがいたから助かったものの、そうでなきゃ、海の肥やしになってる所だぞ」
「扉を抜けて、ここにたどり着いた」と、ジローが言うと、船にいた人々は、とたんに目を丸くした。「どこかの土地に出ると思ったが、海中に出たので、驚いたよ」
――ププププ……。アッハッハハハ
と、船上が笑いに包まれた。
「こりゃたまげたな、小僧」と、人々の奥から、顔の半分をひげで覆った男がやってきて言った。「おれ達は、この海で放牧をやっている仲間達だ。おまえが言っていることが本当なのか、嘘っぱちなのかは知らないが、はぐれた群れを見つけてくれて、礼を言う」
「礼など言われるまでもない」と、ジローは濡れた髪を掻き上げながら言った。「魔女を追いかけて来ただけだ。イルカ達には、偶然出くわした。おれはなにもしちゃいない」
――アッハッハハハ。
と、船がまた笑いで包まれた。
「おいおまえ、気に入ったぞ」と、歯の抜けた老人がジローの肩を叩いて言った。「面白いやつだな。今どき魔女だなんてよ」
「あんた、なんていう名だい」と、袖の破れたシャツを着た女の子が言った。「あたしは青い光。このじじいは、船の行方だ」
「おれの名は」と、ジローは十七号と言いかけて、マコトの言葉を思い出し、改めて言い直した。「おれはジロー。ドリーブランドから来た」
「くっくっくっ……。もうわかったって。そのくらいにしてくれよ」と、青い光は言うと、ジローに着いてくるように首を傾げ、歩き始めた。「海に長い間浸かっていたせいで、少し頭が混乱してるみたいだな。ドリーブランドなんて、陸の昔話にしか出てこない、幼稚なおとぎ話だぞ」
「――」と、ジローは無言で、青い光の後を歩いて行った。
「ジローみたいな行方知らずは、たまに拾うんだ」と、青い光は船室に向かう階段を下に降りていった。「船乗りになりたくて陸を飛び出し、たまたま出会った船団に押しかけたとか、所属していた船が嵐で転覆し、あてもなく漂流していたとか、理由はさまざまさ」