「覚悟はいいのか」
と、マコトは機械陀に言った。「地上に上がれば、おまえのその仏頂面も、成し遂げようとしてきた目標も、見失っちまうかもしれないぞ」
「知らないことを恐れていては、心など、とうてい持つことは叶わないはずです」と、機械陀は言った。「この世界の理のその先まで、私は行ってみたいのです」
「あっ、そう」と、マコトは困ったように言った。「そんだけ流暢に希望を話せりゃ、もう立派な心を持ってると思うがね」
と、聞いていた樹王が、それまで以上に大きな声で笑った。
「じゃあな。今度来る時は、物知りのあんたが、驚くようなみやげ話を持ってきてやるよ」と、マコトは言うと、砂漠に向かって歩き始めた。
「――これまで、ありがとうございました」言うと、機械陀もマコトの後を追いかけて歩き始めた。
「ホッホッホッ……くれぐれも気をつけてな」
樹王の姿は、やがて砂が描いた地平線の向こうに隠れ、すっかり見えなくなってしまった。
「どこに向かっているのですか……」と、静かな足取りの機械陀は言った。
「うるさいってぇの」と、前を歩くマコトは、息も絶え絶えだった。「行けばわかるんだよ」
「――ですが、人であるあなたは、もう命の火が消えかかっているようです」と、機械陀は静かに言った。
「ちぇ――」と、マコトは燦々と降り注ぐ陽光の下、どっかりと腰を下ろした。「扉が開くのを待ってるんだ」
「トビラ、とは――」と、立ち止まった機械陀は言った。「どういった物でしょうか」
「おまえのその寄せ集めのがらくたは、中身が入ってないのかよ」と、マコトは憎々しげに言った。「簡単に言えば、こっちとそっちを繋いでいるもんだよ。おまえの持っている葉っぱが鍵で、その鍵で開く出入り口を、オレ達は探してるのさ」
「お言葉ですが」と、機械陀は言った。「あなたはただ、無目的に歩き続けているようにしか、見えません」
「大木さんは思わせぶりなことしか言わなかったが、オレはおそらく実体のない存在なんだ。それに対して、おまえは意志のない存在なんだよ。葉っぱをおまえにしか渡さなかったのは、実体のあるおまえにしか、扉の鍵は開けられないからだ。だが、意志のないおまえでは、扉を見つけることはできない。だから大木さんは、おれ達二人で行かせたのさ」
「では、私が――」と、機械陀はマコトの前に膝を突くと、背中を見せて言った。「あなたを負ぶって歩きましょう」
「――」と、マコトはため息をついて言った。「違うってぇの。歩けばいいってもんじゃないんだ。扉があるのは場所じゃない。ここなんだ」と、マコトは自分の胸を指差した。