どうして、建物の中に籠もったまま、誰も外に出てこないのだろうか。グレイにはまるで見当もつかなかった。
「――」と、こちらを見る気配を察知して、グレイはさっと振り向いた。
しかし、人の姿はなかった。だが、グレイから隠れることも、またできなかった。
驚かせないよう、人影が見えた建物の隅に駆け寄ると、わずかな屈伸でぴょんと屋根に飛び上がった。
音もなく屋根の上に降りたグレイは、探るように頭を巡らせ、人影の行方を探った。
感覚が導くまま、グレイはふわりと飛ぶように屋根の上を駆け、動いている人影に音もなく近づいていった。
バタン――。
と、乾いたドアの閉まる音が聞こえた場所で、グレイは伝っていた屋根から飛び降りた。
街の、入り組んだ中小路を抜けた先にある、小さな窓の物置のような小屋だった。
――とんとん、ととん。
グレイは軽くノックをすると、ドアの向こうの気配に注意を払った。
なにも、反応はなかった。しかしグレイは、中にいるはずの人物が早鐘のように打つ心臓の鼓動と、悲鳴をかみ殺すほどの動揺をひしひしと捉えていた。
「すみません。ぼくは、グレイ。よその街から来た者です」
と、グレイは声をひそめて言った。「人を捜してるんです。心当たりがないか、聞いてもらえませんか」
グレイは、「お願いします」と、ドアに向かって祈るように頭を下げた。
何度か繰り返し話しかけると、中からドアが開いた。
「――どうか、しましたか」
と、笑顔を浮かべた女性が、姿を見せた。
どこかで、見覚えのある顔だったが、グレイには思い出せなかった。
「ありがとうございます」と、グレイはお礼を言った。「人を捜してるんです。心当たりはないか、聞いてくれませんか」
「いいですけど――」と、女の人は言った。「きみ、一人で来たの」
と、グレイはうなずいた。
「ぼく、一人です」
グレイが言うと、女の人はいぶかしげに外に顔を出し、確かめるように左右の様子をうかがった。