「もう……限界だ」と、審問官はダンの問いには答えず、大司教しか誦することが許されていない呪文を、唱え始めた。
「――」
と、ダンは無表情のまま、ぴくりとも動かなかった。
残った審問官の部下達も、弱り果てた審問官を助けるように、声を合わせて呪文を唱え始めた。
「……愚かな人形め。眠りにつくがいい」と、繰り返される呪文の中、審問官はダンを呪うように言った。
「それが、おまえの答えなのか」
と、無表情のまま、ダンは審問官に言った。「その呪文の意味を知っているか」
しかし、審問官はなにも言わず、ゴーレム使いの秘術とされる呪文を、ただひたすら繰り返すばかりだった。
「おまえ達の言葉で簡単に表すならば、“お馬さんはかわいいね。足が長くて走るのが速いよね。”と、繰り返しているだけだ」
ダンが言うと、さらに声高に呪文が唱えられた。
「悪魔だったのは、おまえ達の方だった」と、ダンは言った。「だまされているのに早く気がつくことができれば、多くの人々を苦しめることなどなかったのに」
ブツン――……
肉が切れる鈍い音が響いたとたん、繰り返されていた呪文の声が、ぷっつりと途切れた。
スクリーンには、たった一人残っているダンが、大写しになっていた。
「魂のない命に、心があるはずなかったんだけどなぁ……」
と、スクリーンを見ていたマコトは、笑みを浮かべながらつぶやくと、大写しになったダンに背を向け、また歩き始めた。
「待て、どこに行く」
と、マコトは立ち止まって振り返った。
見れば、今までスクリーンの中にしかいなかったダンが、暗闇の中、マコトを見て立っていた。
「やっぱりな」と、マコトは言った。「自分の記憶の中に入りこんだと思ったが、どうも覚えていないことばかりで、おかしいと思ったんだ。おまえの思いの中に迷いこんだとは、今の今まで、正直信じられなかったよ」