くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(160)

2024-01-14 00:00:00 | 「王様の扉」


 ……私は魔法学校の学生です。ゾオンの変化を求める人達によって、仲間達が捕らえられています。彼らは自分達の国だけではなく、遠く異世界にまで自分達の思想を広めようとしています。私は、この扉を使って異世界に行こうとする連中を、止めなければなりません。異世界の人達を守らなければならない使命があります。お願いです。『生きている扉』様。私と一緒に逃げてください。彼らは、すぐそこまで迫っています。その重い扉を、今すぐ開けてください。どうか、お願いします。……

 アレッタは、声の聞こえる方に向かって、手足で水をかくように暗闇の中を進んでいった。
 真に迫った女性の声は、何度も繰り返し聞こえてきた。
 早く行かなきゃ……。と、暗闇を進むアレッタも、手足にありったけの力をこめた。
 すると、小さな明かりが見えた。夜空の遠くにたったひとつだけ、まぶしい星が浮かんでいるようだった。
 小さな光を目指して進んでいくと、コツン、と指先が硬い物にぶつかった。
 はっとして手を止めると、アレッタの前に、見えない壁が立ちふさがり、行く手を遮っていた。
「どうしたの。なんなの、これ」と、アレッタは口をとがらせながら言った。
 見えない壁をドンドン――と叩いてみたが、まるでびくともしなかった。小さな明かりは、その壁に穿たれた小さな穴から、漏れているようだった。
 アレッタは小さな穴の向かい側に移動し、おそるおそる、片目をあてて中を覗きこんだ。
 覗きこんですぐ、壁に穿たれた小さな穴は、実は鍵穴であることがわかった。頭が丸く、胴体が台形をした鍵穴は、アレッタが『王様の扉』に設えた物に違いなかった。
「じゃあこの見えない壁が、『王様の扉』なのね」と、アレッタは壁に話しかけるように言うと、鍵穴の向こうを覗きこんだ。

 ……彼らは、すぐそこまで迫っています。その重い扉を、今すぐ開けてください。どうか、お願いします。……

 見えたのは、扉の前で跪き、必死で訴える学生の姿だった。

 ……お願いです。私達を、助けてください。……

 助けを求めて訴える女性の姿を見たアレッタは、目の前にある見えない壁のような『王様の扉』を、なんとか開けようとした。
 しかし、手探りで扉の取っ手を探しても、手に引っかかる物はどこにもなかった。
「まったく。こんなことなら、後ろ側にも取っ手をつけておくべきだったわ」と、アレッタはくやしそうに言った。

「たいへんだ。はやく、はやくたすけなきゃ。たいへんだ。はやく、はやく」……。

 と、『王様の扉』の声ではない声が、後ろから聞こえてきた。
「誰なの?」と、アレッタは振り返ったが、そこにはただ暗闇があるばかりだった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王様の扉(159)

2024-01-14 00:00:00 | 「王様の扉」

「ううん。間違いなく作ったの」と、アレッタは首を振って言った。「扉を作り始めた頃、なんとか『夢の扉』に似た扉を作ろうとして、国の中ならどこにでも行ける空間を作ったんだから」
「わかりました」と、ポットは渋々うなずいて言った。「気をつけて行ってきてください」
「心配しないで、ポット君」と、アレッタはむすりとしているポットに言った。「早く帰ってくるから、お茶はとっても大切よ」
 アレッタは言いながら足を止めることなく、また次の扉を開けると飛び出すようにまた戻り、違う扉を開けて中に入っていった。
 ――――  

 沸かしたお湯が白い湯気を立て始めると、扉の部屋の騒々しさも落ち着き、アレッタの姿も見えなくなった。

「――遅いですね」

 と、言う不機嫌なポットの姿が、目に浮かぶようだった。
「心配しているわよね、きっと」と、アレッタは申し訳なさそうに言った。
 助けを求めてきた扉の様子をうかがったら、すぐに家に戻るはずだった。しかし、予定はすっかり狂ってしまっていた。
 アレッタがいるのは、扉の入口と出口の間にある場所だった。やっと目的の場所に来られたと思ったのだが、自分の姿も見えないほど、深い暗闇が辺りを覆いつくしていた。どのくらいの広さがあるのか、どのくらいの高さがあるのか、上も下も、右も左も、暗くてなにもわからなかった。
 ――やっぱり、行く先の扉が開いていなければ、先がまったく見通せないんだわ。
 と、アレッタは小さくため息を漏らした。かすかに聞こえる扉の声だけが、唯一の頼りだった。
「ねぇ、あなた。どこにいるの」と、アレッタは扉に呼びかけた。

“ぞおん。ゾおん。ゾオん。ゾオン。……”

 という言葉が、繰り返し聞こえてきた。
 いままで、たくさんの扉を作ってきたアレッタは、すぐには思い出せなかった。
 それが国の名前だということは、もうひとつ別の声が聞こえるまで、すっかり忘れてしまっていた。
 扉の独特な話し声に重なるように、女性の声が聞こえてきた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする