……私は魔法学校の学生です。ゾオンの変化を求める人達によって、仲間達が捕らえられています。彼らは自分達の国だけではなく、遠く異世界にまで自分達の思想を広めようとしています。私は、この扉を使って異世界に行こうとする連中を、止めなければなりません。異世界の人達を守らなければならない使命があります。お願いです。『生きている扉』様。私と一緒に逃げてください。彼らは、すぐそこまで迫っています。その重い扉を、今すぐ開けてください。どうか、お願いします。……
アレッタは、声の聞こえる方に向かって、手足で水をかくように暗闇の中を進んでいった。
真に迫った女性の声は、何度も繰り返し聞こえてきた。
早く行かなきゃ……。と、暗闇を進むアレッタも、手足にありったけの力をこめた。
すると、小さな明かりが見えた。夜空の遠くにたったひとつだけ、まぶしい星が浮かんでいるようだった。
小さな光を目指して進んでいくと、コツン、と指先が硬い物にぶつかった。
はっとして手を止めると、アレッタの前に、見えない壁が立ちふさがり、行く手を遮っていた。
「どうしたの。なんなの、これ」と、アレッタは口をとがらせながら言った。
見えない壁をドンドン――と叩いてみたが、まるでびくともしなかった。小さな明かりは、その壁に穿たれた小さな穴から、漏れているようだった。
アレッタは小さな穴の向かい側に移動し、おそるおそる、片目をあてて中を覗きこんだ。
覗きこんですぐ、壁に穿たれた小さな穴は、実は鍵穴であることがわかった。頭が丸く、胴体が台形をした鍵穴は、アレッタが『王様の扉』に設えた物に違いなかった。
「じゃあこの見えない壁が、『王様の扉』なのね」と、アレッタは壁に話しかけるように言うと、鍵穴の向こうを覗きこんだ。
……彼らは、すぐそこまで迫っています。その重い扉を、今すぐ開けてください。どうか、お願いします。……
見えたのは、扉の前で跪き、必死で訴える学生の姿だった。
……お願いです。私達を、助けてください。……
助けを求めて訴える女性の姿を見たアレッタは、目の前にある見えない壁のような『王様の扉』を、なんとか開けようとした。
しかし、手探りで扉の取っ手を探しても、手に引っかかる物はどこにもなかった。
「まったく。こんなことなら、後ろ側にも取っ手をつけておくべきだったわ」と、アレッタはくやしそうに言った。
「たいへんだ。はやく、はやくたすけなきゃ。たいへんだ。はやく、はやく」……。
と、『王様の扉』の声ではない声が、後ろから聞こえてきた。
「誰なの?」と、アレッタは振り返ったが、そこにはただ暗闇があるばかりだった。