ギロリとした怖い目が、帽子を拾ったニンジンをとらえて、ぴたりと止まった。
「おい、ちょっと。なんだよ……」と、ニンジンは手にした帽子を被りながら、苦しまぎれに言った。
「――調子は、どうだい」
公園を取り囲んでいた警官達は、姿を現したライオンに似た獣を見たとたん、声を失った。
警官達を指揮している眼帯だけが、なにやら周りの警官に、次々と指示を飛ばしていた。
「うとうとしていたのに、どうして起こしたの」
と、ライオンに似た獣の、猛獣らしくない甘ったるい声が言った。
「この前もそうだったけど、もう許さないんだから――」
「――おいおい、なにもしちゃいないってば」と、ニンジンは後ずさりしながら、うなり声を上げて近づいてくるライオンに似た獣に言った。
手を貸して立ち上がらせた警官が、危険な雰囲気を感じて、とっさに公園の中に逃げこんだ。ニンジンも後に続いて逃げ出そうとしたが、ほとんど助走もなしで飛び上がったライオンに似た獣は、軽々とニンジンを追い越して、立ち上がった。
ライオンに似た獣は、振り返って鋭い爪と牙をここぞとばかりに見せつけ、逃げる気力と逃げ切る自信を失わせた。観念したニンジンはその場にしゃがみこむと、覚悟を決めてぎゅっと強く目をつぶった。
「――レイラ、おとなしくしなきゃだめだってば」
と、公園にいたはずのマジリックの声が、ニンジンのすぐそば聞こえた。
ニンジンが恐る恐る目を開けると、マジリックがニンジンをかばうように体を寄せていた。
「あいつは?」
と、ニンジンはマジリックの手を借りて立ち上がると、姿の見えないライオン似た獣を探した。
機嫌の悪いライオンに似た獣は、ニンジンが目をつぶっている間に、また軽々と頭上を飛び越え、大きな外国車のドアに噛みついていた。
「どうなってんだ」
と、ニンジンは首をかしげて言うと、帽子を被り直したマジリックが、困ったように言った。
「こんなに芸の無いステージは初めてです。帰ったら特訓しなきゃだめですね」