「いいわ」と、やむを得ないといった表情を浮かべて、女の人は言った。「でも、乾いた風が入りこむから、中で聞かせてもらうわね」
うなずいたグレイが小屋の中に入ると、女の人は急いでドアを締め、すぐに閂を掛けた。
戸惑っているグレイに、はっとして気がついた女の人は言った。
「この街の人じゃないんだものね」と、女の人の笑顔はどこかぎこちなかった。「驚くのもしかたがないわ。たいていの人は、家の中に籠もって、実が成るのを待っているんだもの」
「――」と、グレイは首を傾げた。「木の実か、なにかですか? だとしても、外には木なんて、生えていませんでしたよ」
「ええ。そうよね」と、女の人は言った。「外に生えていた木は、ほとんど伐られてしまったの。みんなが持っているのは、自分達で育てている鉢植えよ」
「鉢植えって、あそこに見えるやつですか――」
と、グレイが指を差したその先に、ひと抱えはありそうな大きさの鉢があった。鉢には、まだ膝の高さまでしかない細い木が一本、植えられていた。
「そうよ」と、女の人は言った。「あなたは、まだ見たことがないかもしれないわね。この木は、“未来の成る木”っていうの」
「――」と、グレイはまた首を傾げた。「未来が成るって――。ダイアナ、それって木の実のこと」
女の人はどきりとして、凍りついたような表情を浮かべた。
「私は、ダイアナじゃないわ」と、女の人は言うと、グレイはあわてて「すみません」と、何度も言って頭を下げた。
「捜しているのは、そのダイアナっていう人なの?」と、女の人はくすりとしながら言った。
「――いえ、違います」と、グレイは赤くなって言った。「誰かに似ていると思ったんですけど、名前が出てこなくて。なのについ口から、誰か知らない人の名前が出てきちゃったんです」
ごめんなさい――。
と、グレイは深々と頭を下げた。
「いいのよ。よくあることだわ」と、女の人は困ったような顔をして言った。「わたしの名前はカルンよ。ダイアナさんじゃなくって、ごめんなさい――」
「違うんです」と、グレイは顔を上げて言った。「ぼくが捜しているのは、魔女なんです。扉を作るのが得意な魔女で、その扉を使って、この街に来たようなんです」
「――魔女?」
と言って、カルンは考えるように目を伏せた。
「そういえば、そんな人達も昔はいたわ。まだ私が小さかった頃よ」と、カルンは声を震わせた。「だけど、もうそれ以来、魔法が使える女性を見たことはないわ」