「ポット殿、私たちにはかまわず、サオリ殿を連れて、扉から逃げてください」
と、地面に手をついた又三郎は、四つ足で草原を駆けながら、大きな声で言った。
虹色の青騎士は、木の階段を駆け上がり、扉の魔女の家のドアにたどり着いた。
ドアの前に立った青騎士は、ノブを握ることなく、頭上高く大剣を振り上げて、ドアを切り破ろうとした。
ダダン――と、しかし玄関のドアは、扉の魔女の魔法がかけられているのか、容赦なく打ち下ろされた大剣をものともせず、音を立ててはじき返した。
「離れなさい」
と、青騎士の背中に飛びついた又三郎は、鎧に突き刺さった鉄の棒を両手でつかみ、引き抜こうとしていた。
青騎士は、背中に上った又三郎には構いもせず、大剣を構え直すと、玄関のドアに再び打ちこんだ。
サオリとポットは、家の中からこちらの状況を見ているはずだった。
「ポット殿、サオリ殿を連れて、早く逃げてください」と、又三郎は大きく揺れる鉄棒につかまりながら、ドアの向こう側にいるはずのポットとサオリに言った。
「だめなんだよ。どこにも逃げられない」
と、ドアの向こうから、くぐもったポットの声が聞こえた。「魔女様の扉達が、騒ぎ始めたんだ。もう僕らを、扉の向こうに行かせてくれない」
「――」と、又三郎は、信じられないというように、首を振って言った。「しかたがありません。どこでもいいです。安全な場所に逃げてください」
――――。
と、ポットとサオリになにかあったのか。ドアの向こうから聞こえていた声が、急に押し黙ったように聞こえなくなった。
「――大丈夫ですか。ポット殿。サオリ殿」と、ドアの向こうに声をかけた又三郎は、ようやく鉄の棒を引き抜き、虹色に光る青騎士の背中を、後ろ向きに転げ落ちていった。
鉄の棒を両手に持ちながら、唇を噛んでいる又三郎を尻目に、虹色の青騎士は幅広の大剣を目の前のドアに打ちこみ続けていた。
キキッ――。
と、矢のように飛んできたアオが、素早く剣を振るった。
青騎士の虹色の鎧が、空間ごと歪むようにずり落ちるかと思われたが、振り返りざまに振るった青騎士の大剣は、見えない空間ごと鎧を断ち切ろうとしたアオの剣を受け、火花を散らせてはじき返した。