「やっぱりな。これは、オレじゃねぇか」
と、マコトがつぶやいたとたん、正面にあった四角いスクリーンは消え去り、あたりが一転、まぶしい明かりに満ちあふれた。
「また移動したんじゃないだろうな」と、マコトは目をしばたたかせて言った。「――違う。さっきの映像の中に入りこんだんだ」
こんな芸当は、魔女じゃなきゃできないか――と、わずかな笑顔を浮かべたマコトは、しかしすぐに凍りついた。
「こいつが完成すれば、悲願が成就するかもしれない」
と、薄汚れた白衣を着た男が、額の汗をぬぐいながら、聞いたことのない言語で言った。
ここは、どこかの研究室なのだろうか。継ぎ目のない、つややかな堅い床には、なにをするための物なのか、見慣れない機械やら道具やらが、無造作に置かれていた。
聞き覚えのない言語を話す男は、室内に設えられた祭壇にも似た寝台に目を落としていた。
寝台の上には、がっちりとした人形のような物が寝かされていた。
「――今日は、うまくいくかもしれないな」
「――きょうは、うまく行くかもしれないな」
言ったのは、マコトと、白衣を着た男だった。
声の高さは違ったものの、聞き慣れない言語の抑揚も、調子も、唇の動きさえ、二人はまったく同じように言葉を発していた。
まるで、二人が同じ役を同時に演じているかのようだった。
「――今日は、うまくいくかもしれないな」
白衣を着た男は繰り返し言うと、なにやら奇妙な道具を手に、せわしなく室内を行き来し始めた。
マコトは、白衣の男を目で追いかけつつも、寝台の上に寝かされたまま、ぴくりとも動かない人形の様子をうかがっていた。
せわしなく室内を行き来する白衣の男には、マコトの姿が見えていないらしかった。
「さぁ、とうとう生まれるぞ」
と、白衣の男は、壁の前に置かれた装置の前に立ち、ボタンのような物を押しながら言った。「運命を終わらせる者よ、地上に現れ出でよ――」
白衣の男の興奮しきった声だけが、室内に響き渡った。
マコトはきょとんと、白衣の男が見守る寝台の上の人形に、じっと目を落としていた。
すると、白衣の男が見守っていた人形が、小刻みではあるが、ぶるぶると震え始めた。
小刻みな振動はしかし、みるみるうちに大きくなり、息もしていなかった人形が、命を吹きこまれたかのように、手足を暴れさせ始めた。