くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

王様の扉(145)

2024-01-07 00:00:00 | 「王様の扉」


「やっぱりな。これは、オレじゃねぇか」

 と、マコトがつぶやいたとたん、正面にあった四角いスクリーンは消え去り、あたりが一転、まぶしい明かりに満ちあふれた。
「また移動したんじゃないだろうな」と、マコトは目をしばたたかせて言った。「――違う。さっきの映像の中に入りこんだんだ」
 こんな芸当は、魔女じゃなきゃできないか――と、わずかな笑顔を浮かべたマコトは、しかしすぐに凍りついた。

「こいつが完成すれば、悲願が成就するかもしれない」

 と、薄汚れた白衣を着た男が、額の汗をぬぐいながら、聞いたことのない言語で言った。
 ここは、どこかの研究室なのだろうか。継ぎ目のない、つややかな堅い床には、なにをするための物なのか、見慣れない機械やら道具やらが、無造作に置かれていた。
 聞き覚えのない言語を話す男は、室内に設えられた祭壇にも似た寝台に目を落としていた。
 寝台の上には、がっちりとした人形のような物が寝かされていた。

「――今日は、うまくいくかもしれないな」
「――きょうは、うまく行くかもしれないな」

 言ったのは、マコトと、白衣を着た男だった。
 声の高さは違ったものの、聞き慣れない言語の抑揚も、調子も、唇の動きさえ、二人はまったく同じように言葉を発していた。
 まるで、二人が同じ役を同時に演じているかのようだった。

「――今日は、うまくいくかもしれないな」

 白衣を着た男は繰り返し言うと、なにやら奇妙な道具を手に、せわしなく室内を行き来し始めた。
 マコトは、白衣の男を目で追いかけつつも、寝台の上に寝かされたまま、ぴくりとも動かない人形の様子をうかがっていた。
 せわしなく室内を行き来する白衣の男には、マコトの姿が見えていないらしかった。

「さぁ、とうとう生まれるぞ」

 と、白衣の男は、壁の前に置かれた装置の前に立ち、ボタンのような物を押しながら言った。「運命を終わらせる者よ、地上に現れ出でよ――」
 白衣の男の興奮しきった声だけが、室内に響き渡った。
 マコトはきょとんと、白衣の男が見守る寝台の上の人形に、じっと目を落としていた。
 すると、白衣の男が見守っていた人形が、小刻みではあるが、ぶるぶると震え始めた。
 小刻みな振動はしかし、みるみるうちに大きくなり、息もしていなかった人形が、命を吹きこまれたかのように、手足を暴れさせ始めた。

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王様の扉(146)

2024-01-07 00:00:00 | 「王様の扉」


「――よし、いいぞ。その調子だ」

 と、白衣の男は寝台の上に寝かされた人形に駆け寄ると、寝台から転げ落ちないように上から体をのしかからせ、人形をなんとか静かにさせようと必死だった。
 寝台の横に立ち、黙って様子をうかがっていたマコトは、床に置かれた四角い箱に座ると、あごに手を当ててため息をついた。

「我が希望の化身よ。おめでとう。君はたった今、命を得た」

 と、寝台から床に降りた白衣の男は、満面に笑みを浮かべながら、両手を大きく広げて言った。
 むくり――。と、寝台の上に寝かされていた人形が、上体を起こした。戸惑っているのか、ゆっくりと首を巡らせると、両手を広げている男に気がつき、向き合って床に足を下ろした。
「新しく生まれた君には、私の持っている、魂以外のすべての物を持たせた」と、白衣の男は言った。「さぁ、君の使命を果たしてくれ。地の果てまで、私を追いかけてこい――」

 ボツン――……。

 と、命を持った人形に胸を突かれた男は、マコトの前に力なく倒れ伏した。
 確かめるまでもなく、心臓を突き抜けるほどの一撃を食らった男は、息絶えていた。しかしその顔は、どこか満足そうな笑みを浮かべていた。
 ため息をついたマコトが見ると、不思議そうに自分の拳をまじまじと見た人形は、そうすることをあらかじめ命じられていたかのように、神妙な表情をしながら、ドアを抜けて部屋の外に出て行った。

「――ちぇっ。やっぱりか」

 と、マコトが言うと、あたりはまた暗闇に包まれた。
 見えない椅子から立ち上がると、マコトは後ろを振り返った。
「――」と、振り返った先にあったのは、ついさっきまで目の前にあった四角いスクリーンと、まったく同じ物だった。
 ちぇっ、と舌打ちをしながら、マコトはまた映像を映し出しているスクリーンに向かって、歩いて行った。
 スクリーンに映し出されている映像は、マコトの遠い記憶に残っている場面だった。
 ただ、はっきりと思い出せる場面と、まったく知らない場面とがあった。
 自分の中で、うろ覚えになっていた記憶同士をつなぎ合わせた映像が、スクリーンに映し出されているのではないか。そう疑ってはみたが、どこかしっくりとこない違和感があった。

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